【B】星のない夜 ~戻らない恋~
何時だってそう。
本当に大切な時には、
何一つ自分の足で歩くことが出来ない。
今も言葉に出来ないままでいる
秘め事に胸が苦しくなる。
涙が筋を付けていく。
そんな私を気遣いながら、忙しいはずの怜皇さんは、
私の手を握ったままずっと付き添いを続けていてくれた。
手のひらから伝わってくる温もりだけが優しかった。
「あのね……、心【しずか】再発してた……。
怜皇さんが教えてくれた、この医療センターでも
もう一度粒子線治療をすることは出来ないんだって。
ねぇ……まだ紀天小さいのよ。
まだ1歳にもなってないのに……こんなことないよ。
でも……今思えば、心【しずか】はこうなることも覚悟していたのかもしれないって
そんな風にも思えるの。
『私、最後まで紀天のお母さんで居たいって』って。
春に入院して、医療センターから退院した後も……
心【しずか】は……本当に紀天と、睦樹さんのことを思って過ごしてた。
ご近所のお友達に、絹谷さんって人が居てね、そこの家にも紀天と同い年の女の子がいるの。
毎日のようにお家に招いて、寝相アートを作って写真におさめたり、
まだ歩き出すことも出来ていないのに、次々と家の中に玩具が溢れて行くの。
何気なしに私は、そんな心【しずか】を見守ってたけど……
今思い返せば、行動がおかしいよ。
あんなに近くにいたのに、なんで気付いてあげられなかったんだろう」
「思いつめなくていい。
咲空良は精一杯、心【しずか】ちゃんの傍にいただろう。
睦樹も助かってるって、いつも喜んでたぞ」
「だけど……『自分の死』も覚悟してたのかもしれないって。
転移の話を聞いて、体が震えて……。
不安で押しつぶされそうになって。
ねぇ、怜皇さん……心【しずか】を治せる名医探し出してよ。
もう一度、笑顔を取り戻してあげてよ」
縋るように告げた言葉。
その言葉に、怜皇さんはただ首を横に振った。
真っ直ぐに見つめた、真剣な眼差しのまま、
彼はゆっくりと言葉を続ける。