【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「どうしたんだよ。お前らしくない。
一段、数字見誤ってんじゃん。なんかあった?」
「あったと言えばあった。なかったと言えばなかった」
「って、お前どっちだよ。
あったんだよな。んで、原因は?」
「邸に戻ってた」
「そっ、なるほどね」
邸に戻ってたの一言で、俺と両親の確執と言うか関係を全て知ってる睦樹は
事情を察したように、溜息を吐き出した。
「んで今回の呼び出しは?」
「あっ、婚約者が出来た。
出来たって言うか、昔、婚約者だって紹介されてた終わりだと思ってたことは、
今になって現実に浮上したって言うのが正しいかな」
「あっ、そう。
オレ、つくづく財閥の坊ちゃんじゃなくて良かったって心から思うよ」
そんなことをしみじみと言いながらも、視線だけはプレゼン用の資料に視線を向け続けて
睦樹がゆっくりと保存をかける。
「よしっ、こんなもんじゃない?
後は、質疑応答だよな」
そのまま三時間くらいプレゼンの練習に付き合って貰って
その後は、朝まで何気ない話を珈琲を飲みながら続ける。
睦樹が今、恋している出向先の会社の娘の話。
告白するタイミングに悩んでるアイツを見ながら、
自由に恋愛できる、その身軽さが羨ましくなる。
その後は、俺自身が抱える問題を引きづりだすように根掘り葉掘り、
掘り下げていく。
そんなやりとりを続け、始発電車が動き出す頃に研修室を後にする。
この春、出向先の向上に正式に瑠璃垣をやめて転職を決めた睦樹。
このプロジェクトは、睦樹の出向先との提携業務を第一に考えてたものだから、
親友への花向けのためにも、何とか成功させたかった。
「怜皇、とりあえず俺は今日、心(しずか)さんの卒業式に
聖フローシアの正門前まで行く予定なんだ。
お前も来る?
お前の婚約者も、聖フローシアなんだろ」
睦樹の声に頷くと、俺はアイツの車の助手席に乗り込んで
そのまま睦樹の暮らすマンションへと戻った。
お風呂を借りて、その後はソファーで少し仮眠させて貰う。
その後、お昼前にアイツの車で聖フローシアへと向かった。
自動車学校には通って、運転免許はあるものの、
ペーパードライバーで、なかなか運転させて貰えない俺に
睦樹は愛車を預けて、想い人の方へと歩いていく。
そんなアイツを、睦樹の愛車に持たれながらボーっとみつめる。