【B】星のない夜 ~戻らない恋~
32.悪魔の囁き - 葵桜秋 -
心【しずか】の癌再発から一年が過ぎようとしていた。
咲空良は相変わらず心【しずか】の息子と、心【しずか】にかかりきり。
私自身は、この一年間も相変わらず葵桜秋と咲空良を演じ続ける日々が続いていた。
ただ一つ私と怜皇様の関係に際して違ってきたのはただ一つ。
私と怜皇さんの交際に、社長夫人と言う後ろ盾が存在しているということ。
社長夫人は、私にいつも都城【みやしろ】の家の悪口と、咲空良の悪口を告げる。
今は近衛を名乗っている私が、都城の血を持つ者だなんて
これっぽっちも知らない。
そんな情報すら行き届いてない存在が、社長夫人だって言うのが
おかしくて仕方がない。
それでも利用できるものはドンドン利用する。
社長夫人と言う味方が付いたことで、私が怜皇様と一緒に居るところを外で目撃されても
今はもう誰も陰口もたたかなければ、噂にもされることはない。
誰かに目撃されることに内心怯えていた私の時間は終わり。
咲空良としてではなく、葵桜秋として怜皇さんに認められて
迎えられる日も近い。
そんな風にも錯覚させられる。
新年を迎えた直後から、抗がん剤治療の効果もも心【しずか】は得られなかったみたいで、
自宅療養を中心に、最後の時間を過ごすことになった。
自宅療養で家族で少し続ける時間は
心【しずか】の最初で最後の我儘の時間。
その時間に寄り添いたい咲空良の想いも、
私にとっては利用できる価値をもたらしてくれるもの。
咲空良も、葵桜秋も葵桜秋自身なのだと、
怜皇さまに見抜いてほしいと望む気持ちが大きくなる。
それもそのはず……。
怜皇さまと常に時間を過ごすことが出来た
プロジェクトチームがもう解散してしまうから。
チームが解散してしまうと、近くに感じられていた怜皇さんは
遠くに離れてしまう。
だからこそ常に一緒にいれる咲空良は羨ましいし、
どうせ最初から怜皇さんの傍に居たのは私なのだから、
私だと見抜いてほしい。
満たしきれない欲望を止めてくれるのは
怜皇さん自身しかないようにすら思えて。
プロジェクトチーム解散の夜。
私は打ち上げの後、何時もと同じように怜皇さまと、
ホテルへと向かった。
ホテルに入室した途端に、壁に押し付けられるようにして始まったキス。
そのキスは、徐々に濃厚なものへと変化を遂げて怜皇さまの手がブラウスの上から、
胸を揉みしだいていく。
そんな僅かなことにすら、敏感に反応してしまう私の体は
じんわりと蜜を溢れだしていく。