【B】星のない夜 ~戻らない恋~
徐々に零れだす吐息。
そんな吐息の合間をぬって、ようやく紡ぎだす彼の名。
「怜皇……さま……」
名前を紡いだ私に、我を取り戻したように
自らの体を私から遠ざける。
乱れたブラウスを素早く直していく怜皇さまの手。
えっ?
このまま……遠ざかってしまう。
捨てられてしまう?
プツリと途切れてしまった行為、彼を待ち続け、蜜を溢れさせて
開花の時を待ち続けてる私。
「嫌っ」
叫びながら、無意識に手を伸ばして怜皇さまの腕を掴みとる。
怜皇さまの視線が戸惑いを見せながら私を捉える。
「ずっと……お慕いしてました。
学院のダンスパーティーの時から」
「君も神前悧羅が母校なのか?」
そう呟いた怜皇さま。
怜皇さまは、私の出身校さえ知らない……。
出身校も知らなければ、
その名前から、咲空良と結びつけることもない。
結び付けて欲しいわけじゃない。
だけど……私は、こんなにも怜皇さまを思っていても
怜皇さまは、私には何一つ興味何て必要ないと言う
現実を強く突きつけられた気がした。
「いいえっ。
私はフローシアですから……」
「そうだったのか。
フローシアと、母校は確かに交流があったね」
えぇ。
その交流会が、私と怜皇さまとの最初の出会いだもの。
忘れるなんて出来ない。
だけどその時、貴方が出会ったのは咲空良の名を語った私。
そう思った途端、悲しさからか、悔しさからか
自分でも制御することが出来ない涙が頬を伝っていく。
「何故、泣いている?」
この瞬間だけは……
怜皇さまは、私をずって見てくれてる。
そう感じていられる。
本当の私を……。
「私を抱いてください……。
ずっと思い続けた私の片想いの時間を
怜皇さまの手で終わらせてください。
プロジェクトも終わる。
私の夢も終わる……。
だから……最後の夜をください」
縋るように願う。
体制もプライドも何もなかった。
咲空良から全てを奪い取りたい一身。
私の惨めな一生を解き放ちたい一身。
そして……心の中に巣食う、悪魔の囁き。