【B】星のない夜 ~戻らない恋~

昂燿校に女子は存在しない。
かと言えば……悧羅校か海神校。


近衛葵桜秋。
彼女ほど優秀だと、役員クラスに名前が出てこないはずがない。



「いいえっ。
 私はフローシアですから……」


必死に思い返していた俺に、彼女はフローシアの生徒だったのだと
答えをくれた。



「そうだったのか。
 フローシアと、母校は確かに交流があったね」


そんな沈黙の中、彼女は涙を流す。
その涙が綺麗で、思わず声をかけずにはいられなかった。


「何故、泣いている?」

「私を抱いてください……。

 ずっと思い続けた私の片想いの時間を
 怜皇さまの手で終わらせてください。

 プロジェクトも終わる。

 私の夢も終わる……。
 だから……最後の夜をください」

「葵桜秋、君は……」

「怜皇さまは、結婚されてしまう。
 どんな形にしても私の手の届かない存在になってしまう。

 だから……最後の想い出を。
 貴方を私の中に深く刻み込んで、この想いを咲かせて」




縋るように告げる言葉に、
これを本当の意味での最後にするように
俺は再び、彼女と体を重ねた。


俺が利用し続けた彼女へのお詫びも込めて。




翌朝、彼女は会社には出社しなかった。


体調不良という理由で、欠勤の電話が入っていたようだが
特にそれ以上は気にかけることはなかった。



彼女の手元に残した封筒には、金額に書いていない小切手を残してきた。
その中に彼女が思う金額を記入してくれれば、その金額を手切れ金として渡す。



彼女の部署も、俺の傍から遠ざける。
彼女の能力がもっと光る部署へと。


俺からの推薦で、別の部署の責任者へと出世させることが出来たら
彼女も受け入れてくれるだろう。

そんな風にも思った。







午前中の会議を終えた後、いつものように睦樹の元へと移動を決める。




秋に癌が再発した心【しずか】ちゃんは、子宮の全摘・抗がん剤治療をしたにもかかわらず
それ以上の回復は見込めなかった。

これ以上の治療は、残り少ない余命を削るだけだという判断で
自宅療養を余儀なくされ、年明けと共に最期の時間を住み慣れた自宅で過ごすようになっていた。





時間を許す限り、何度も何度も廣瀬家へと足を運ぶ。



そこでは、毎日のように何かを撮影し続ける心【しずか】ちゃんと、
それを手伝う咲空良の姿。


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