【B】星のない夜 ~戻らない恋~
34.親友の死 - 咲空良 -
葵桜秋として寝た?
突然の電話。
葵桜秋との電話の最中、記憶が途切れてしまった私の傍には
睦樹さんが連絡したのか駆けつけてきた怜皇さんの姿。
「怜皇さん……」
「咲空良、無理をするな。
もう少し休め」
心【しずか】の自宅の客室。
そこのベッドで寝かされた私には訪問医が診察してくれたのか、
点滴がゆっくりと体内に入り込んでいた。
目の前に怜皇さんが居てくれる。
それが私たちの距離を縮めてくれたみたいで嬉しくなる。
じっと見つめ続ける怜皇さんの手が
ゆっくりと伸びてきて私の髪に触れる。
何度か撫でられるその仕草だけで嬉しくて。
少しでもその時間を感じていたくて、
何も追求することが出来ないでいた。
「睦樹に聞いた。
心【しずか】さんのモルヒネの量が随分と増えたみたいだな」
その問いかけに、ゆっくりと頷く。
心【しずか】の癌の進行は止まることがなくて
今では起きているときは、痛みに唸ることも多くて
鎮痛させるためにモルヒネに頼るしかなくなっていた。
だけどモルヒネを多く入れるようになると、
意識が微睡【まどろむ】時間が増える。
一日の間に、僅かに起き上がることしか
出来なくなっていた心【しずか】。
それは心【しずか】の最期の時間を徐々に実感させていった。
「心【しずか】さんがこういう時だ。
離れていたくないのもわかるが帰るぞ」
明け方、私が起きるのを待って怜皇さんは廣瀬家から私を
邸へと連れて帰る。
心【しずか】のことになると、
自分のことよりも、親友のことを優先してしまう私を
見守りながら、必要な時には必要な手を出してくれる。
何度も怜皇さんの紡いだ言葉に救われて、
自分を見つめ続けることが出来た。
私が心【しずか】を追い詰めるなんて出来ない。
屋敷についてからも、抱きかかえられるようにして
寝室まで連れていかれた私はそのままベッドに横にされた。
「君はもう少し眠るといい」
彼が紡ぐ優しさが心の中に染み渡る。
大きなベッドに眠っているのは私一人。
それでも彼を感じていられるのは、
彼がノーパソのキーを叩く音が部屋の中に響いているから。
そんな音を子守唄に私は再び眠りについた。
明くる日、私が目覚めた時に怜皇さんの姿はない。
葵桜秋の言葉は気になるのに私を優しく気遣ってくれる
怜皇さんに、それを問い詰めるなんて出来なかった。