【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「妊娠……したのでしょう?」
えっ?
まだ誰にも言ってない私の秘密。
「無意識かも知れないけど、
貴女の手が何度もお腹を庇ってるもの。
貴女一人の体じゃないのだから無理しないのよ」
そう言いながら書類を手にして、
立ち去っていく。
鞄を抱えながら、
エントランスの方へと向かう私。
帰り際、怜皇さまが何人かの部下を引き連れて
私の前を颯爽と通っていく。
上司である彼らに、
私はただ黙って会釈して移動を見守る。
プロジェクトが終わってしまった後だから、
もう接点がなくなってしまった後だから?
見向きもせずに通過していった彼に……
初めて苛立つ私がそこに居た。
私を狂わせたのは
咲空良。
私を堕としたのは
貴方だから……。
ゆっくりと目を閉じて、
お腹にそっと手のひらを添える。
『この子が居るから……。
大丈夫』
何度も呪文のように
心の中唱える。
この子だけが……私に優しく微笑みかけてくれる
唯一も味方みたいに思えた。