【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「桜舞です」
カクテルを少し口元に運んだあと、
彼女は次から次へと涙をこぼしながら話はじめる。
「ねぇ、どうして私じゃダメなの?
さっきもアナタが会社と交流のある女性と
一緒に居るのを見ただけで、
妬いて自分が制御できなかった……。
バカだよね……」
それは彼女が零す、初めての本音。
その夜、代行業者に車を預けて
邸へと戻ると、寝室のベッドで初めての夜を共にした。
俺の腕の中で恥じらいを見せながらも、
悦びの声をあげる彼女はとても美しかった。
その日から、時間が許せる限り邸に帰宅して
彼女と過ごす時間を優先的に作るように心掛けた。
彼女を抱きしめた夜から始まった新しい時間。
彼女を本当の意味で幸せにしたいと
心から願うようになったから。
家族と言うものに、恋と言うものに
本当の【幸せ】を感じることが出来なかった俺が
今は心から慈しみたいとさえ思わせてくれる。
それもまた彼女が俺に教えてくれた
家族としての一歩だった。