【B】星のない夜 ~戻らない恋~
4.瑠璃垣の使者 - 咲空良 -
突然の許婚の出現は私を不安にさせる。
隣に居た葵桜秋の気配を感じながら
眠れぬままに朝になった私は、早々に布団から這い出した。
今日からは春休み。
あれだけ必死に頑張って入社が決まった憧れの会社。
エステ業界。
あの場所で女性たちが美しくなる手助けをしながら、
それど同時に私自身も変身できたらいいなーって思ってた。
今のままじゃ、私は葵桜秋がいないと何もできない。
引っ込み思案と内気な性格は、
いつも私から自信を奪ってしまう。
だから……自分らしさと言う武器を手に入れたかった。
葵桜秋の美しさを追いかけるのではなくて
私は私らしさの美と出会いたい。
そんな一途の望みをかけて就職を決めたのに、
あの日の決意は無駄になっちゃったんだ。
そう思ったら、心の中が空っぽになった。
何かをしていないとマイナスのことばかりが思い浮かんで
悲しくなるから、それから逃げるように家の中の家事をする。
家の中の掃除をして、洗濯機を回して。
家事を次々とこなしながら、過ぎていく時間。
財閥なんて大きなところに私なんかが行っても浮いちゃうよ。
私じゃなくて、葵桜秋が行ってくれたら。
葵桜秋だったら似合うよ。
社交的だし、堂々としてるから未来の経営者の隣で
凛々しく肩を並べて立ってるはず。
多分……。
そう思うのにどうして私なんだろう?
なんで……私が早く生まれてきちゃったんだろう。
体を動かしてても、思い浮かんでしまうのは
そんな言葉ばかり。
頬を両手でパンパンと二回ほど叩いて
気持ちを切り替える努力をすると、
そのまま、出来上がった洗濯物を籠に移して
庭の物干しスペースで、ゆっくりと干し始めた。
すると突然停車した、真っ白な長い車。
スーツ姿の運転手らしき男の人が先に降り立つと
後部座席の扉をすぐに開ける。
その中から姿を見せたのは、
メイドさんらしい服を着付けた年輩の女性。
そして、ビシっと決めたスーツ姿の
キャリアウーマンな女性がその人に続く。
思わぬ光景に魅了されるように
そのままじっと、目の前の映像を眺めつづけた。
運転手さんらしき男の人は、
鳥の羽を集めたような高級そうな、
けばたきで車を撫でるような仕草を始めた。
メイド服のその人は、ゆっくりと
我が家の門の方へと移動して、
チャイムを鳴らした。