【B】星のない夜 ~戻らない恋~


*


『咲空良……私ね、恋にはいろんな形があると思う。

 睦樹さんと出逢った時ね、今でこそ凄く優しい彼が見えてくるけど
 出逢った頃は喧嘩ばかりしてたの。

 ほらっ、私って大ざっぱな性格でしょ。
 睦樹さんは凄く神経質。

 私のやることなすこと、彼には雑に見えてその度に喧嘩ばかりしてた。
 だけど喧嘩って本音を見せてくれる。

 だから一つのルールを決めたの。
 我慢せずにお互い言いたいことは包み隠さずぶつけようって。

 だけどそれを何時までもズルズルと引きづらないってね。


 恋って本当にいろんな出会いがあって、いろんな方があると思う。

 咲空良も、遺言による婚約者で、それも財閥の御曹司で、第一印象は最悪で怖かった。

 だけど今、咲空良の傍で優しく貴方を見守る彼は、
 あの頃とは違うし、今の彼に咲空良も恋してるんじゃないかな?


 きっかけは気が付けて受け止められた時でいいの。
 だけど気がついた後は、自分の心に嘘をつかないように気をつけて』



*

心【しずか】が遺してくれた言葉が、
私を温かく包み込んで、私に勇気をくれる。





一度気になりだすと居てもたっても居られなくて、
生まれて初めて彼の会社へと電話をする。




「お電話有難うございます。

 瑠璃垣コーポレーション、
 インフォメーションセンターの三井です」


携帯電話から聞こえてくるのは受付嬢らしいスタッフ。
滑舌の良い柔らかな声が印象的だった。



「お忙しいところすいません。
 私、瑠璃垣の婚約者で都城【みやしろ】と申します。

 瑠璃垣怜皇はおりますでしょうか?」



ゆっくりと告げた私の声に、相手が一気に緊張していくのが伝わってくる。


「ひっ、秘書室に繋ぎます。
 少々お待ちくださいませ」


そう言って、彼女の声は途切れ有名なクラシック曲が
保留音として流れる。


「お電話変わりました。
 秘書室の宮野です。

 瑠璃垣は、秘書の東堂と共に出張に出掛けております。
 ご存じないのでしょうか?」


遠慮気に切り込みながらも、フィアンセとしての私を試されているように会話をはじめる宮野さん。
柔らかい口調の中に鋭さを秘めた声。

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