【B】星のない夜 ~戻らない恋~

38.二人の秘密 - 葵桜秋 -



妊娠が発覚していつも以上に体に気を遣うようになった。


胎動を感じることが出来るようになった頃、
私は全ての覚悟を決めて、久しぶりに実家へと帰宅した。


あんなに苦手だったこの家も今の私には利用価値がある。



私は悪くない。
悪いのは全て咲空良。






そう言う形で、
全てをカミングアウトする。




宿ってしまった命は大切に育てたいと。





世間体を気にする両親はきっと咲空良に激怒する。




私は……咲空良に人生を狂わされた犠牲者だもの。




ねぇ……ママに力を貸して。



必ずアナタにお父さんを連れてきてあげるから。

お腹に手を当てて告げる私の言葉が伝わったのか、
胎動を感じた気がした。



鍵をまわして玄関から中に入る。




「あらっ、お帰りなさい。
 珍しいわね」



玄関まで迎えに出た母親が告げる。



「ただいま。
 お父さんはいる?」

「えぇ、居るわよ。

 咲空良が瑠璃垣の屋敷に行ってしまって
 貴女まで、マンションを借りて帰ってこなくなったから
 この家でお父さんと二人きり。

 寂しかったわよ。

 お父さんと二人だと会話が続かなくて息が詰まっちゃう。

 ほらっ、顔を出してあげて。
 お父さんも喜ぶわ。


 お父さん、お父さん、葵桜秋が帰って来たわよ」



そう言いながら、お母さんは家の中へと入っていく。


勝負はもうすぐ。


お父さんとお母さんを絶対に私の味方にしなきゃ。
この子の為にも。




覚悟を決めてリビングへと姿を見せる。




お父さんはクラシックオーケストラの曲を聞きながら
ゆったりとした時間を過ごしていた。


リモコンに手を伸ばして電源を落とす。




「ただいま、お父さん」

「お帰り、葵桜秋。
 仕事は順調か?」


「えぇ。
 
 怜皇さまからも信頼して貰えてこの間まで、
 私の実力で同じプロジェクトチームのメンバーとして行動してたのよ。

 もうプロジェクトは解散してしまったけど」

「あぁ。知っている。
 プロジェクトの解散後も、大出世で今は新しい部署でも
 新顧客を増やして凄いみたいじゃないか?」

「有難う。
 ただ私は必死に目の前の仕事をしているだけよ」


お父さんとの会話はそれ以上進むことがなくて
沈黙だけが広がっていく。
 


重い空気を断ち切るように私はお腹にそっと手を当てる。
母はそんな仕草に敏感に反応して近づいてくる。



「葵桜秋、貴女もしかして……妊娠してるの?」


母親の問いかけに私はゆっくりと頷いた。


椅子に座っていた父親は立ち上がってかなり震えながら
手が飛び出してきそう。
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