【B】星のない夜 ~戻らない恋~
39.呼び出された日 -怜皇-
夏が近づき始めた頃、本家から直接呼出しの電話があった。
仕事を終えて会長である祖父の邸へと赴くと、
そこには険しい顔をして俺を睨みつける養母がいきなり罵声を浴びせる。
「怜皇さん、貴方って方はなんてことをしてくれるの?」
養母のその言葉に、
俺は罵声を浴びせられる意味すら分からなかった。
そのまま奥の広間へと続く扉を開けると、
着物姿の会長と、スーツ姿の父が真剣な眼差しで誰かと向き合っていた。
その向き合っていた人物は、
都城と言う男で、婚約者である咲空良の父親だった。
正式に結婚を決めた。
先に、父に告げたその思いに添うように
都城氏を呼び出してくれたのだとその時は思ったが、
それはすぐに誤解だったことに気がついた。
その場で告げられたことは、
俺の部署で働き続けていた近衛葵桜秋が、近衛は母親姓で
戸籍上の名は都城葵桜秋と言う名だと言うこと。
その現実を突き詰められた時、俺は背筋が凍る思いがした。
俺は彼女たちが姉妹だとは知らぬ間に、
関係を持ってしまっていたのか……。
誰にも告げずにひっそりと交際していた時間のはずなのに、
もうきっぱりと清算できた関係のはずなのに、こんな形で現実が襲い掛かってくるとは。
そして更に追い打ちがかけられたのは咲空良のこと。
思えば、心【しずか】さんが他界するまでの間、
咲空良と出逢っているのは外の方が多かった。
瑠璃垣の屋敷が息苦しいのだと思っていたが、
そこにも咲空良と近衛の双子ならではの企みがあったことを知らされた。
知らず知らずの間に惹かれて関係を持っていた葵桜秋も、
慣れない生活から不安を感じて俺を求める咲空良も、
どちらも近衛葵桜秋と言う人物だったということ。
通りで、葵桜秋と出逢っている時にその中に咲空良を感じることが多かったと、
今はその感覚に納得が出来る。
どちらも葵桜秋でしかなかったのだと。
それは……俺たちが何度か出逢っていた学生時代にまで遡る。
彼女が俺を覚えていないことに腹ただしささえ覚えたものだが、
本当のことを言えば、彼女・咲空良の反応は正しかった。
俺が出逢っていたのは、咲空良の身代わりとして入れ替わって来ていた
葵桜秋だったのだから。
あまりの出来事、あまりに現実に心が追いつかず
裏切られた思いで心の中が渦巻いていた。
ようやく幸せになれると思っていた。
心から愛せる人を見つけて、家族を作ることが出来ると思っていた。
だけど現実は残酷で、告げられた真実は俺を闇の奥へと突き落とす。