【B】星のない夜 ~戻らない恋~



「お姉ちゃん……ごめんね。

 私、お姉ちゃんの身代わりをしている間に怜皇さまの子供妊娠したみたいなの。
 妊娠さえしてなかったら、ずっと黙ってるつもりだった。

 だけど……もうそう言うわけには行かないから。
 私はこのお腹に宿った赤ちゃんの為にも彼の子供を産みたいと思うの」




葵桜秋の声が、気持ち悪いほど私の脳裏に焼き付く。


何時も咲空良と呼び捨てする葵桜秋がお姉ちゃんと呼ぶ、そんな時間。



全てが葵桜秋によって仕組まれたのだと
気が付いた頃には、すでに幾重にも張り巡らされた
蜘蛛の糸に捉えられた後だった。





「咲空良、瑠璃垣家はお前との婚約を公に発表した後だ。
 その意味がわかるな」



お父さんはゆっくりと座りなおすと静かに口を開いた。


瑠璃垣の信用を失墜させることは社会的にも大きな損失を招いて
生き残りをかけたお祖父さまの会社も終わってしまう。


吸収合併と言う形とはいえ、母体を得て、お祖父さまの時代から
ずっとうちの会社の為に尽くして来てくれた従業員たち。


その従業員たち全ても、受け入れてくれたのだと
何度も何度も聞かされ続けた瑠璃垣の家。


この一件は、私たちだけの問題じゃなくて
いろんな人に迷惑がかかるだと気付かされた。




葵桜秋の妊娠。




ようやく……愛せると思ったのに一緒に生きていたいと思ったの。



父の会社に関する将来の不安と同時に、
私が釈明出来ることを記憶を遡って掘り起こす。



「でも聞いて。
 確かに葵桜秋に、何度も入れ替わって貰ってた。
 
 それは私が現実を受け止める勇気がなかったから。
 だけど葵桜秋も葵桜秋なのよ。

 葵桜秋は怜皇さんとは上司と部下の関係だったでしょ。

 私の婚約者と知りながら、上司と部下として
 怜皇さんと関係を重ねてたって得意げに私に告げたもの。

 全てが私が悪いわけじゃないわ」


「お姉ちゃん、そんなこといって何処に証拠があるのよ。
 確かに怜皇様と私は同じプロジェクトで一緒に仕事をしたわよ。

 だけどあくまでビジネスパートナーよ。
 お腹の中の子は、咲空良として貴方が婚約者として出来なかった役割を私がした時に
 宿った愛の結晶。

 この子は、瑠璃垣怜皇と都城咲空良の子なのよ」



どれだけ叫んでも、どれだけ必死に伝えようとしても
空回りばかりで誰も取り合ってくれない。



葵桜秋が言うよりに、怜皇と葵桜秋の肉体関係を証明できるものなんて
何処にもない。

あの子からの連絡はいつも電話で、会話内容も録音なんてしていない。
私は葵桜秋の箏を本当に信じていたから。



「お父さんとお母さんに相談があるの。

 お父さんの会社も迷惑かけたくないし、瑠璃垣の家も迷惑かけたくない。
 私とお姉ちゃんは、そっくりだもの。

 私、この子を守るためならこの先の未来、
 咲空良として生きてもいい。

 容姿も血液型も一緒。

 だから……私がこのまま入れ替わって、咲空良として過ごすのが
 お祖父さまが守り続けたかった会社の為なの。

お父様とお母さま、そして瑠璃垣の為なの。


 それに私は……フローシア学院に通っていた時から、
 ずっと怜皇様に片想いをし続けてた。

 咲空良として瑠璃垣の家に入ることになっても、
 怜皇様が好きって言う私の想いは変わることはないもの」



瑠璃垣の屋敷についた初日、『初めまして』って挨拶をした私。


だけど怜皇さんからしてみれば初めてじゃなかったんだ。
葵桜秋が演じた咲空良とすでに対面してたってことだったの?
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