【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「おめでとう、咲空良ちゃん」
「本当に美しいお嬢さんになって。
お父さんも誇り高いだろう」
「妊娠中なんだってね。
咲空良ちゃんの子供が、将来の瑠璃垣を背負うかも知れないんだね。
元気な子を産むんだよ」
久しぶりに会った、親戚の人たちに次から次へと祝福される。
次から次へと祝福していく親族にも、
私と咲空良の入れ替わりを見破られる人物なんて存在しない。
そして私と違って咲空良の人間関係は乏しい。
唯一の親友は、他界したばかり。
友人代表者は学生時代、生徒会で何度か顔を合わせた、当時の副会長。
当時の生徒会メンバーでお祝いに駆けつけてくれた咲空良の親友たち。
咲空良の身代わりをしていたから存在は知ってる。
だけど……作り笑いをするのに疲れてきた……。
本当に祝福される私の為の結婚式なら、
友人代表でコメントをくれるのも私の一番の親友だもの。
そんな風に考えてしまうと嬉しいはずの結婚式も、
素直に喜ぶなんて出来ない。
こんなにも愛しい人と結ばれるのに、
この祝福は私であって私じゃない。
グローブをつけた手のまま、
自らの手のひらに爪を立てる。
そして感じる胎動。
胎動を感じて、ゆっくりと深呼吸をしながら
私は安定剤のようにお腹の方へと手を添える。
この子だけは……確かな真実。
やがて目障りだった咲空良の友人たちが
退室して、親戚連中も居なくなる。
部屋に残るのは父親。