【B】星のない夜 ~戻らない恋~


「綺麗よ、咲空良。

 幸せになりなさい」




そう告ぐむ母の言葉すら白々しく心に響く。




「お時間になりました」



式場の人たちが控室に呼びに来る。



秘め事を隠したままの秘密の結婚式。




パイプオルガンの音色が響く教会。



赤い絨毯の惹かれたバージンロードを
父と共に一歩ずつ足を進めながら、
怜皇さまの元へと向かっていく。



葵桜秋として参列している咲空良が、
唇を噛みしめているのをチラリと視界にとめる。




いい気味よ。



父の元を離れて、怜皇さまの腕を取って
ゆっくりと進んでいく。



誓いの言葉、指輪交換。
儀式は確実に過ぎていく。





大勢の人が次から次へと祝福の声をくれるのに
心の中、それを否定したくて仕方がない私と、
その祝福を素直に喜べない私が居る。





あんなにも臨んだ咲空良のポジジョン。




咲空良の希望通りに、全てを奪い取ってあげたのに、
手に入れたその先は空虚さだけが広がってる。






『咲空良』




怜皇さまが、そうやって私を見つめて
名を紡ぐだけで私を見つめてくれているのに、
胸が張り裂けそうで……。




秘密の結婚式は、
苦痛に満ちただけの時間。






幸せな花嫁を演じながらも、
いつも咲空良ばかりを視線で追いかけていた。


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