【B】星のない夜 ~戻らない恋~
42.裏切られた想い - 怜皇 -
度重なる出張の最中、九州から呼び戻されて告げられた真実。
あの日から俺は、
人間不信を感じずにはいられなかった。
帰れるようになってきた瑠璃垣の屋敷にも、
また帰れない日々が続いた。
そんな最中、父からの電話で都城葵桜秋が、都城咲空良として
瑠璃垣の邸に入ってくる日が決まったと連絡があった。
「怜皇、忙しいとは思うが、
その日だけは都合をつけて迎え入れてやってくれ」
都合よすぎる想い。
だけど……邪険にすることも出来ない。
俺自身も、自らの思いで
彼女、近衛葵桜秋に手を出してしまっているのだから。
だけど彼女が、最初から都城姓で瑠璃垣に就職してくれていたら
その名前に反応して、こんな現実にはならなかったのかもしれない。
だったら純粋に、彼女と咲空良だけを追い詰めることも出来た。
だけど俺自身にも、それだけでは言い訳に出来ない現実が確実にある。
それ故に、感情を何処に吐き出すことも出来なかった。
今も咲空良のことを考えると胸が苦しくなる。
彼女があんなバカな「入れ替わりなんて」ことをやろうと言いださなかったら
こんなにも今、俺が苦しむこともなかった。
そして今、苦しんで心から後悔しているであろう咲空良の苦しみもなかった。
自らの愚かさを呪わずにはいられない。
この先……俺は彼女の傍にはいられなくなる。
そんな彼女を支えてくれるのは、アイツしか連想できなかった。
仕事の合間に、睦樹と紀天が暮らす廣瀬家へと向かう。
廣瀬家に咲空良が行かなくなって数週間。
「話がある、睦樹」
そう言って訪ねた俺に、睦樹は咲空良の心配を言葉にした。
紀天は睦樹の義父となる心さんのお父さんが連れて
リビングを後にする。