【B】星のない夜 ~戻らない恋~
鳴りやまない呼び出し音。
そんな呼び出し音にすら、ストレスを強く感じながら
携帯を操作して着信音を消す。
携帯電話の呼び出しはカットできても、
自宅にかかってきた電話は、母に寄って繋げられて
私は誰か知らないまま、その相手と会話をすることになる。
電話に出るものの上手く話せない私に、
葵桜秋の職場の人たちは更に心配する。
だけどその中の一人は違った。
『お腹の子は元気なの?』
確かにそう言った存在。
名前まで覚えられなかったけど、
その人の声だけはやけに印象に残った。
会社でも……葵桜秋が妊娠したことを知ってる人は居たんだ。
「近衛さん、いえ、都城さんだったのね。
水臭いわ。
瑠璃の君の挙式と披露宴が発表されたわね。
瑠璃の君の婚約者が、貴女のお姉さんだなんて
どうして教えてくれなかったの?
会社は退社してしまっても会場では逢えるかしら?
二重のオメデタね」
そう言ってその人は電話を一方的に切った。
だから嫌だったの……。
葵桜秋として外に飛び出すなんて私には無理よ。
私とは違って葵桜秋の交流は幅広いもの。
私が葵桜秋じゃないってすぐにばれちゃうよ。
世間体と秘め事。
名前が変わると言うことがもたらす、
自分の中の障害が明確に表れ始める。
どれだけ拒絶しようとしても時は待ってくれない。
挙式当日。
朝から体調が優れなかった私をベッドからぴっばり出して、
準備させる母。
ヘアメイク、ドレスアップ。
全てが終わって式場へは都城葵桜秋として参列する。
控室。
幸せ絶頂の花嫁として葵桜秋が咲空良として微笑む。
もう叶うはずのない、私の祝福の鐘。
居てもたっても居られなくなって、
葵桜秋が待機する控室から飛び出した。