【B】星のない夜 ~戻らない恋~
何処にでもいい。
消えれる場所があるなら、
この場所から逃げ出したい。
下を向いたまま、
駈け出した私は人にぶつかってその場でこける。
こけた私にゆっくりと手を差し伸べてきたのは、
もう一人の本日の主役、怜皇さん。
チャコールグレーのタキシードに赤系のアイテムを合わせた姿は、
とても素敵だった。
「怜皇さん……」
声にならない声で呟く。
差し伸ばされた手にゆっくりと自らの手を重ねると
グイっと力強く引き起こしてくれる。
そのまま……怜皇さんの姿に釘付けになる私は、
フリーズしたように動けなかった。
久しぶりに再会した怜皇さん……。
「……咲空良……」
怜皇さんも声に出さずに私の名を紡ぐ。
「あっ、有難うごさいます」
ようやく声として紡げた言葉。
だけどそれ以上は会話は続けられなかった。
「怜皇さん、ご無沙汰しています。
本日はおめでとうございます」
僅かに交わった私と怜皇さんの時間は、
結婚を祝福するビジネス関係者の登場ですぐに終わってしまう。
「有難うございます」
そうやってすぐに、関係者への対応に慌ただしい怜皇さんは
私の前から姿を消した。
咲空良ではなくなった私には、
彼の隣に長く居続けることなど出来ない。
瑠璃垣怜皇は、都城咲空良の夫になる男。
だけどその咲空良は、もう私じゃない。
そう思ったら、また涙が零れてしまった。
やっぱり来るんじゃなかった……。
目が回って床がぐらつくような感触があって
もたれ掛るように壁に手をつく。
乱れていく呼吸。
必死に倒れないように気を付けながら、
歩いて行く壁際。
少しでも知ってる人が少ない場所に行きたかった。