【B】星のない夜 ~戻らない恋~

2.新婚生活 -葵桜秋-



結婚式当日。


祝福される花嫁のはずなのに、式が終わって残されたものは
感動ではなく虚しさだけ。


式の後も、次から次へと瑠璃垣の時期後継者の嫁となった
咲空良にはやるべきことが沢山ある。



怜皇さまの隣に立つと言うこと。



それは夢見る妄想とは全く違っていた。


連日届く、いろんなパーティの招待状。



そう言ったパーティに、
連日連夜梯子するように顔を出していく。



怜皇さまの秘書によって、小刻みに組まれたスケジュールを
順番に成し遂げていく。




ゆっくりと夫婦らしい会話なんてする時間もない。




外に居る間も、屋敷の中に居る間も、
怜皇さまのその口が紡ぐのは咲空良の名前ばかり。




葵桜秋と紡いでくれたその声が、
今は私の本当の名前を紡ぐことはない。



覚悟していたはずなのに……二人きりの時間も、
本当の名前を紡いでくれないのは、私にとっては大きなストレスだった。




パーティ会場ではいろんな国の言葉が飛び交っていて、
怜皇さまは、どの来客ともそれぞれの国の言葉でスムーズに会話を成していく。


その隣、ただどんな会話がなされているのかすらわからないまま、
ぎこちなく笑みを浮かべるだけの飾り物。



『咲空良さん、輿入れ前の花嫁修業の時間は何だったのです?
 こんなことでは、怜皇の隣には立たせられませんわ。

 私たちや主人、瑠璃垣の地位を貶めるようなことはなさらないで』




なんて……葵桜秋の時は、私を利用しようと近づいてきた
奥さまこと、社長夫人まで突っかかってくる。


夢見た新婚生活に甘い時間なんてどこにもなかった。




怜皇さまに葵桜秋として抱かれたあの夜を最後に、
彼は私に触れようとはしない。




瑠璃垣の屋敷に住みだして時間がたつのに、
一度も寝室に訪ねてきたことはなくて、
そして挙式がすんだ後も変わっていない。
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