【B】星のない夜 ~戻らない恋~
『使用人たちに怪しまれますわ』
その肌が恋しくて、怜皇さまが出掛ける前に駆け寄って、
耳元でひそひそと紡ぐ。
「怪しまれることなど何もない。
君は妊娠中。
俺は仕事に忙しい。
知可子、花楓、検診の付き添いは任せた。
咲空良、留守を頼む」
検診すら付き添ってくれる気配もない。
あんなに憧れた続けた新婚生活。
咲空良になれば、
全てが満たされると思っていた夢の時間。
焦がれ続けた時間は理想とは違いすぎて。
怜皇さまが私を必要とするときは、
ビジネスが関わる、パーティーへ連名で招待された時のみ。
そんな時だけ、用意されたドレスで着飾って
腕を組んで幸せそうな夫婦を演じながら
その中に溶け込む。
後は……独り過ごす時間。
お腹の子は確実に育ってくれてる。
それだけが……私にとって唯一の救い。
どれほどに理想とは違い過ぎた現実でも、
もう泣き言は言えない。
この子の命と、
この子の未来は私がしっかりと守らなきゃ。
咲空良としての全てを奪い取っても、
私を支えてくれるものは、
お腹の中のこの子一人だけだと言う現実。
幸せになりたい……。
幼い頃から祈り続けた思いは、
小さな灯へと姿を変えていく。
満天の星空から、
一つ一つ小さな灯りが消えていく。
頭上には、新月を思わせる
真っ暗な闇だけが広がっているようだった。