【B】星のない夜 ~戻らない恋~
4.咲空良のいない部屋 - 葵桜秋 -
卒業式の翌日。
突然の来客の訪れにより咲空良は家を出ていった。
空っぽになった咲空良の家具が置いたあったスペースが
無駄に広さを感じてしまってなんだか自分の部屋なのに落ち着かない。
何度も自分だけの部屋が欲しいと
望んだことはあったけど、
こんな未来を欲しかったわけじゃない。
長年の家具の配置により、
色が変わってしまった絨毯、
そして家具の重みによって出来てしまった窪み。
そっとその場所に指先を触れる。
昨日まで此処にいた、私を惨めにさせる存在は、
もうここには居ないのに、それでも拭い去ることが出来ない敗北感。
瑠璃垣の使者が咲空良を連れて行った一時間後、
引っ越し用の大型トラックが家の前に横付けされて、
咲空良が使っていたものが全て引っ越し業者の手によって運び出されていった
咲空良の荷物。
私たち家族の手元に残ったのは、
お互いの背比べを刻み込んだ柱の傷跡。
リビングのサイトボードに飾られた旅行に行った時の家族写真。
シーンと静まり返った家は寂しさを募らせる。
そのまま自宅に居続けることも耐えられなくて、
服を着替えてリビングで今もTVを楽しみ続ける母に声をかけて
家を出た。
望んだことじゃない?
ずっと狭かった部屋が広くなったのよ。
なのにどうして……どうして、
こんなにぽっかりと穴が開いたように寂しくなるの?
そんな寂しさを紛らわせるように、
私は昨日の目的を遂げるように美容室へと向かった。
私は一人。
そして春からは憧れの瑠璃垣の社員になるの。
あの方のもとで……怜皇さまの下で働くことが出来る。
ちゃんと私は自分で自分の意志で実力で、
自分自身の意思で自分の道を決めてきたもの。
だから……今回もちゃんと自分で歩けばいいもの。
咲空良は咲空良。
私は私……。
その日、私は初めて訪れた美容室で
生まれて初めて、黒髪とサヨナラをして
慣れ親しんだ髪型を変えた。