【B】星のない夜 ~戻らない恋~

3.震える心 帰れない場所 -怜皇-


八月。

俺は瑠璃垣を守るため、
都城咲空良と共に結婚式をあげた。




出逢ったばかりの頃は、腹ただしいこともあった。


俺は彼女のことを覚えていたのに、
彼女は俺の存在を覚えていなかったから。



だけど……今になって、
それは別人だった言うことがわかった。



彼女と彼女の双子の妹は一卵性双生児で、
引っ込み思案な姉にかわって、ゲームのように入れ替わっていたのだと。



一番最初、彼女のお祖父さまである会長に寄って連れられたのは
多分、本当に咲空良自身だったのだろう。


だけど……その後、彼女の名を語って姿を見せていたのは
都城葵桜秋。


ずっと彼女の双子の妹だった。



それは……社会人になった後も、ずっと続いていたらしい。






結婚式の最中、時折、お腹をかばいながら
幸せそうに咲空良の名を語って俺の隣で微笑むのは彼女の妹。



妹が姉に代わり、姉の名を背負って一族の元へと輿入れする。




そんなバカげた現実を、狂った一族は誰もとめようともしない。



それは俺が、実母の元を離れて養子として迎えられた時から
わかっていたことじゃないか……。



多くのビジネス関係者の祝福を受け、社交辞令を告げながらも
俺が視線で追いかけるのは、妹として会場に存在する姉、咲空良の存在。



彼女は今、何を感じながらこの場に存在するのだろう。




俺は何処で過ちを犯したのだろう。





父のようにはなりたくなかった。

そんな風に思っていた女性関係も、
蓋を開けてみたら俺自身の恋愛も乱れすぎていた。





彼女たちが入れ替わることなどなければ、
俺はただ一人の存在を愛し、心を満たすことが出来たのだろうか?




足りない何かを求めながら、
互いに陰陽を補い合う双子に惹かれることはなかったのだろうか?




そんなこと今となってはどうでもいい。



今の俺がどちらに愛情を抱いているかなど、今となっては無意味なもので
考えることも必要ない。






俺の妻は、妹が姉を語る都城咲空良。
彼女が瑠璃垣咲空良として俺の隣に立ち続ける。



そして彼女のお腹に居る……子供が一人。






やり過ごすように結婚式を終えて、ホテルに引き上げたものの
俺に執拗に愛撫をねだる彼女は、紛れもなく妹自身の性質で姉・咲空良のものではなかった。
< 160 / 232 >

この作品をシェア

pagetop