【B】星のない夜 ~戻らない恋~
葵桜秋はお料理も家事も大嫌いだから。
自宅では、そんな風に葵桜秋として振舞わないといけない。
そのまま久しぶりに廣瀬家の台所で晩御飯と睦樹さんに頼まれたお弁当を作って、
賑やかな声に過去に囲まれて晩御飯を終えると洗い物の後、睦樹さんに車で自宅まで送って貰った。
実家に戻ると「遅かったわね」っと私を迎え入れる母。
「ただいま」と短く声をかけて、そのまま自室へと駆け上がる。
一人になった途端、またどうしようもない寂しさと悲しさが押し寄せてきた。
会社の為、世間体の為、葵桜秋のお腹の中に赤ちゃんの為、
そして自分自身が蒔いた過。
仕方がないんだと必死に言い聞かせてはみても、
すぐに新しい生活に馴染むことは出来なかった。
葵桜秋の結婚式から一ヶ月。
実家に引きこもるような状態になってしまった私に、
お母さんとお父さんは、葵桜秋としてお小言を繰り返す。
「葵桜秋、あんまり家にばかりいて
引きこもってないで、外に出なさい。
外に出て、
貴女がやりたかったことをしなさい」
「咲空良も嫁いだわ。
葵桜秋も同い年。
葵桜秋の結婚も考えないといけないわね。
大丈夫よ。
新しい恋をしたら、貴女の傷も塞がるわ。
お見合いでもしてみる?」
お見合い?
外に出なさい?
勝手な事ばかり言わないでよ。
一番大切なこと忘れてるよ。
葵桜秋がずっと怜皇さんを好きだったのは
お父さんもお母さんも知ったかもしれない。
だけど……私も好きになったの。
葵桜秋より気が付くのは遅かったし時間もかかったけど、
あの人とだったら未来を歩いてもいいって思ったの。
そうやって思えた存在を奪われて、
全てを失って空っぽになった私には何が残ってるのよ。
怜皇さんを縛りつける赤ちゃんすら私には居ない。