【B】星のない夜 ~戻らない恋~




私の中にも宿った赤ちゃん。




その赤ちゃんの父親は怜皇さんしかいない。



怜皇さん以外と体の関係を持ったことはないから。
決して祝福されるはずのない我が子。



父親に認知されることのない子供。
私生児になってしまう。


そして多分……実の両親からも祝福されることはない。




それでも堕胎するなんて選択肢は私の中には思いつかない。




この子を育てたい……。



心【しずか】と紀天のことを傍でじっと見てきた。


二人を近くで見ていたから私も欲しいと願ったの。
怜皇さんの子供が……。



だけど……こんな未来を予想して望んだわけじゃなかった。




産みたい。
そう望むのは私の我儘。


この子を父親のいない子供にしてしまうのも、
私以外の誰からも望まれない子供にしてしまうのも私の責任。



全ては私が現実から目を背けたから。




こんな形で、神様からの罰【ばち】が当たるなんて……。



地下鉄を降りて電車を乗り継いで辿りついた先は、
親友の心【しずか】が眠る場所。




心【しずか】の名前が刻まれた墓石に手を触れながら、
その場に座り込んで涙を流す。





ねぇ……心【しずか】。



この子を守ってあげたい。
私に何が出来る?



教えて……。





聞こえることのない返事を待ちながら、
ただ見つめ続ける、墓石に刻まれた親友の名前。


玉砂利を踏み鳴らしながら近づいてくる足音。


「ねえたん……パパ……」


背後から抱き付いてくる小さな感触。

そう言って抱き付いてくるのはいつも私に光をくれた、
心【しずか】の忘れ形見。


「こんばんは。

 日中は暑い季節とはいえ、夜は秋風に肌寒くなります。
 女性は体を冷やすものじゃありませんよ」



そう言いながら自分の羽織っていた長袖の薄いパーカーを肩からかけてくれる。



「紀天……それに睦樹さん」


「咲空良ちゃん……こんな時間にどうして?
 心【しずか】のお彼岸のお参りには、少し遅いような気がしますよ。

 それに何処か顔の色が優れないみたいですね」」



もう誰もが私を咲空良と呼ぶことがないのに、睦樹さんだけは本当の名前で呼んでくれる。


彼は手早く、お墓の手入れをして蝋燭と線香をセットすると、
紀天を呼び寄せて、ゆっくりとお参りを始めた。



私もそんな二人の隣、つられるように手を合わせる。


二人は心【しずか】が居なくなっても頑張って生きてる。
私も……頑張らなきゃ。


この子を精一杯守れるように強くなりたい。


この子が誇りに思ってくれるような『産んでくれて有難う』って
そう思ってくれるようなお母さんになりたい。



ねぇ、心【しずか】泣き言はもう卒業。
紀天が教えてくれた。

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