【B】星のない夜 ~戻らない恋~



チョキチョキと髪に鋏がいれられる度に
チクリと痛む心を隠して。




新しい私と出会うための儀式に望みたいに、
その時間の一瞬一瞬を受け入れた。




三時間後。



鏡の向こうに映る私の髪は、
明るい茶色へと姿を変え、
まっすぐなストレートの髪は、
揺る巻きの柔らかな表情へと印象を変えた。




「都城さま、いかかでしょうか?」



スタイリストが後ろ側に鏡をかざしながら
鏡を見つめる私に話しかける。



「えぇ、有難う。
 ここに来てよかったわ。

 もうすぐ憧れの会社に就職できるの。
 これで新生活も頑張れるわ」



そう答えると、担当スタイリストは
嬉しそうに微笑みかけた。



「当店はトータルプロデュースを手掛けております。

 引き続き、隣の部屋でメイクカウンセリングなども出来ますが
 いかがなさいますか?」



営業上手な担当スタイリストは、
そうやって私に話しかけてきた。


すぐに家に帰る気にもなれず、今後の勉強も兼ねて
そのままズルズルとメイクカウンセリングを受けていく。




一卵性双生児であること。


小さい時から一緒に比べられ続けるのが辛かったこと。



気が付いたら、その人に吐き出してた。



その人は、ただ黙って私の話を受け止めてくれて
その後、手に持った筆で魔法をかけてくれた。




双子だからと似すぎてしまっている同じパーツを、
メイク一つで別の印象に変えてくれる魔法。



鏡に映る私は、昨日までと別に思えて、
その中に、咲空良を重ねる要素が消えてしまってた。




「これが……私?」



「はい。
 こちらが都城さまの本来の美しさ。

 どうぞ、ご自身に自信を持って社会人一年目の記念すべき年を
 力強く歩き出してください」




そう言うと、椅子から立ち上がった私を
さりげなくエスコートして会計コーナーへと誘導した。





入室して5時間の時間が過ぎた私は、
朝と大きく容姿を変えていた。




新しい自分との出会いは心を軽くして、
そのまま新生活に必要な洋服などを買い揃えて時間を楽しんだ。





人はすぐに今の生活に順応する。




咲空良がいない部屋の広さにもすぐに慣れた四月。



私は憧れの会社の入社式に臨んだ。




怜皇さまが座る重役席は裸眼では遠すぎると見ることが叶わず
中央に映し出される、巨大モニター越しに見ることしか叶わなかったけれど、
それでも僅かにでも距離が縮められたみたいで嬉しかった。






生まれ変わろう。





ずっと……劣等感と敗北感だけを抱いて
歩き続けた私とサヨナラして、
新しく出会った私をもっともっと大切にしよう。




そう言い聞かせた
新生活初日は、輝きを残して過ぎていった。

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