【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「はい、東堂です」
「咲空良です。
怜皇は?」
少しでも優位にたっているのを
自分に刻みたくて、呼び捨てするパ-トナーの名前。
「咲空良様、ただいま怜皇様は重要な商談中で、
電話に出ることが出来ません。
ご用件を承ります」
義務的に告げる秘書の東堂。
貴方の存在すら、今の私には目障りなのよ。
「東堂、私が呼んでいるの。
怜皇のパートナーである私が呼んでるのよ」
「はいっ。
存じ上げております。
幾ら奥様の仰せでしょうとも重要な商談を中断させることは出来かねます。
怜皇様のお仕事に対してご理解ある立場と存じますが……」
丁寧な口調で切り返す言葉すら苛立たせてくれる。
「もう言いわよ。
東堂、いいわ。
覚えてらっしゃい」
苛立ちを抑えきれないように、
わけのわからぬまま叫び倒して電話を切る。
呼吸が乱れて受話器を握りしめたまま息を整える。
チラリと視線を向けると、
そこには冷たい視線を向けて立ち尽くす花楓。
「花楓、何見てるの。
そんな目で私を見て、誰か知可子、知可子はいないの?」
続いて叫ぶ私に知可子は慌てて姿を見せる。
「お呼びでございましょうか?
奥様」
「えぇ。
この目障りな花楓をさがらしなさい。
知可子、貴女の娘にしては礼儀がなさすぎます。
私は女主人、怜皇の妻。
そして将来の瑠璃垣の後継者の母親となる身。
幾らでも代用のきく使用人などとは違うのです。
花楓にもそれをわからせなさい。
表に車を。出掛けます」
そう言うと自分の部屋に入って、
クローゼットの中からブランドの洋服を取り出して着替える。
胸元を飾るのは大きなダイヤモンド。
ブランドの高級バッグ。
同じくブランド物のペタンコの靴を履いて
大きくなったお腹を庇うように手を添えながら出掛ける。
運転手に介助して貰って車に乗り込む。
「車を出して。
気分転換をしたいの」
言い放って瑠璃垣の家を飛び出す。
お気に入りのお店で手あたり次第、
気になる洋服や鞄、ジュエリーを購入していく。
それでも今日はスッキリしなかった。
買い物に飽きてきた私は購入したものを全て車に運び込ませて
更に車を走らせる。