【B】星のない夜 ~戻らない恋~



「実家に向かってちょうだい」





そう、実家よ。

実家に帰ったら、すっきりするはず。



怜皇さまを奪われて、落ち込み続ける咲空良を見ながら
自分を慰められる。


咲空良よりは私は幸せよって自分を納得させられる。


ただそれだけの為に咲空良を利用したかった。


見慣れた景色。
実家の前に車を停めさせる。


運転手に介助して貰いながら実家のインタ-ホンをゆっくりと押す。
だけど中から誰かが手でくる気配すらそこにはなかった。



もうっ、何してるのよ。


せっかく嫁いだ身重の娘が帰ってきたって言うのに。

一向に出てくる気配のない両親にも苛立つ。

暫く粘ってみても、玄関が開く気配はなく、
合鍵もない私はしぶしぶ車へと戻る。



咲空良が行きそうなところ。



そうよっ、実家にに居ないなら
咲空良が居そうな場所を探せばいいのよ。


あの根暗の交流範囲が少ない咲空良。



咲空良だったら……そう思ったとき、思い浮かぶのは
廣瀬心【ひろせ しずか】の存在。




そうよ。


「北区の廣瀬電子工業へ」


運転手は頷くと車をゆっくりと走らせ始めた。

廣瀬電子工業近くの信号で停車する車。


車窓から視線を向けた公園では咲空良が楽しそうに笑ってた。

心【しずか】の子供が寄り添って何かをゆすってる。


それに耳を近づけて子供を抱き上げる咲空良。
そんな二人に近寄ってくるのは心【しずか】の旦那。



動き出す車。




「奥様、間もなく廣瀬電子工業に到着します」




運転手の声に、声を荒げる。






「屋敷へ。
 気分が優れないの。

 早く帰りなさい」





苛立ちが私を追い詰めていく。




苦しんでいるのは私だけなの?




あの頃から何も変わらないのは私一人?


今も咲空良に対する劣等感が消えてくれない。


咲空良が大切にしていたものの全てを奪ってしまっても、
咲空良になり代わっても、咲空良は……すぐに光を見つけて
暗闇の中から抜け出してしまう。




星のない夜。





真っ暗な空を眺めながらお腹にそっと手を添える。






大丈夫……。


この子が私の星になってくれる。
光はここにあるから……。





不安の先の世界は、
闇を濃いくしていくばかり。

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