【B】星のない夜 ~戻らない恋~
6.睦樹からの連絡 -怜皇-
結婚式から二ヶ月。
季節は秋になろうとしていた。
結婚式のあの日から、咲空良とは連絡を取ることも
外で会うことも出来なくなっていた。
咲空良として邸で生活している、妹の葵桜秋に至っては
邸の中で横暴な態度が目の余るのか、木下から助けを求める連絡が
入ってくるほどだった。
俺自身も、邸には殆ど帰れないでいた。
咲空良は俺がずっと帰れない日があっても、
俺自身を責めるようなことはしなかった。
彼女に我慢をさせていたのだと思えたのと同時に、
彼女が俺にとって最上のパートナーとなりえる存在だったのだと
今になって感じる方が出来る。
結婚式を終えて、咲空良として存在する妹を連れて外に出たのは
四度のパーティーの時のみ。
社交的だと感じていた葵桜秋自身の長所は何時しか、
彼女の短所へと豹変していた。
隣に立っているだけで、『瑠璃垣』の言う地位に何を感じているのか
吐き気を覚える養母の如く振舞い続ける。
一緒に生活すればするほどに、一度は体を求めた関係にも関わらず
嫌悪感を感じずにはいられない。
そんな葵桜秋とは今だ、
真っ直ぐに向き合えずにいた俺の元に一本の電話が入った。
電話の相手は睦樹。
睦樹からの電話に俺は、母の店で待ち合わせすることになった。
お互いの仕事を終えて、待ち合わせをしたpriere de l'ange(プリエールデランジュ)の
何時もの部屋に現れたのは睦樹一人。
一緒に来るであろうと思っていたまだ幼い紀天の姿はなかった。
「遅くなってごめん」
「いやっ、いい気分転換になるよ。
睦樹、子供は?」
「咲空良ちゃんに預けてきたよ」
サラリとその名を紡ぐ睦樹。
久しぶりに聞いた、その名に俺自身の鼓動は高鳴る。
「咲空良は元気にしてるか?」
少しでも彼女の今が知りたいと問う。
「そのことで怜皇にはしっかりと話しておきたいことが出来て、
今日は連絡したんだ。
九月の彼岸の日、俺は心【しずか】のお墓の前で立ち尽くす彼女を見つけた。
彼女は君の子供を妊娠してる」
彼女が俺の子供を妊娠?
その言葉に俺は絶句して、思考回路が遮断された。
咲空良が妊娠?
葵桜秋だけではなく、咲空良をも妊娠させてしまっていた現実。
そしてそのことが、
こうなった今でも彼女を苦しめ続けていたのかもとれないと、
そのことを考えると自身の罪深さを恨まずにはいられない。
葵桜秋よりも早く、彼女の妊娠が発覚していたら……
俺は彼女と結婚することが出来ていたのだろうか?
それでも神は、今のように葵桜秋の中にも命を宿らせたのだろう。
俺の血を受け継ぐ二つの命、その命を育み続ける双子の姉妹。
目の前の現実に、気が遠くなるのを感じ歯を食いしばりながら、
現実を見つめ続ける。