【B】星のない夜 ~戻らない恋~



私が行った過ちから全て。


一卵性の双子であることを利用して小さい頃から、
苦手なことがあると葵桜秋と入れ替わっていたこと。


卒業して、瑠璃垣の家に入ってからも
何度も入れ替わったことがあること。


その結果、葵桜秋が妊娠してしまったこと。


そして両親は、世間に露呈することを恐れて
葵桜秋を咲空良として瑠璃垣の家に嫁がせたこと。 


私は葵桜秋として家に連れ戻されたこと。


後は……私自身も、
今日妊娠していると告げられたこと。



明くる日、睦樹さんと紀天に付き添われて出掛けた産婦人科。


そこで正式に妊娠していることが告げられて、
どうしてこんなにお腹の子が大きくなるまで、病院に来なかったのかと
診て貰ったお医者様には言われた。



お腹の中の赤ちゃんは私が気が付くのが遅かっただけで、
もうかなり大きく成長していた。

映像で見るお腹の中、この子の形はすでに形成されていて
愛しさすら思える。


我が子の画像をプリントして貰って私は手帳にしっかりと挟んだ。


頑張らなきゃ。
もう弱音なんて言ってられない。




「家を出ます。

 じゃないと……実家で生活していたら妊娠がばれてしまう。
 今はまだ目立たないお腹でも、これからどんどん大きくなるわ。
 妊娠がばれたら、この子の命を奪われてしまう」



会計を待つ途中、決意するように告げた言葉。



待ち時間と私の診察の間に疲れてしまった紀天は、
待合のソファーでお眠りタイム。




「大丈夫、昨日も言ったけど俺がついてるから。

 悪いようにはしない。

 だけど……何時までも逃げるわけにはいかないだろ。
 暫くの間、任せてよ。

 家に帰るのが嫌なら、俺の仕事が忙しくて、
 紀天についててやれないから手伝ってほしいって言われたって、
 こっちで住めばいいよ。

 紀天も現に、咲空良ちゃんがいると嬉しそうだから。
 父親だけじゃ、叶えてやれないことやりたいんだろうな。

 それに咲空良ちゃんが付き合ってやってもいいって
 思ってくれるなら、こちらからお願いしたいんだけどな。

 ただし紀天のお世話をして貰った分は俺が君に給料として手渡す。
 住み込みの育児ヘルパーさん、やって貰えないかな?」



*


睦樹さんが告げたその言葉は私の想像をこえるもので、
びっくりしちゃった。



だけどその一声のおかげで、
私はこの家で表向き住み込みのヘルパーさんとして存在している。



ヘルパーさんとしてこの家に寝泊まりするようになって1ヶ月。


心【しずか】の家族と過ごす時間は、本当に暖かくて
傷ついた私の心を慰めてくれる。




向かいの家の女の子晃穂ちゃんが玄関から顔を出すと、
たちまち家の前は賑やかになる。




「紀天っ、晃穂ちゃんを追いかけまわっちゃダメよ。
 女の子は優しく、優しくね。

 紀天のパパも凄く優しいでしょ」



少し大きく声を張り上げて、手招きすると紀天はタッタッタとかけてきて
私の体にしがみつく。
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