【B】星のない夜 ~戻らない恋~
母子家庭。
お腹の中の子には私しかいない。
だけど紀天だったら……生まれてくる子の、
近所のお兄ちゃんくらいにはなってくれないかな?
そしたら一人っ子でも寂しくなくなるよね。
そんな風に思いながら紀天の寝相を眺めつつ、
寝息に耳を澄ます。
ねぇ、心【しずか】……。
私、睦樹さんの申し出に
紀天の優しさに甘えてもいいのかな?
貴女が託してくれた大切な宝物に。
心の中に灯った温もりは優しさを染み渡らせていく。
全てを受け止めて……、
私も新しい一歩を踏みだそう。
過去に後悔しないように、
葵桜秋を恨んで生きることがないように。
そして何時か葵桜秋が産む怜皇さんとの間の子供にも
笑って祝福できるように……。
小さな紀天の手を、
優しく握り返して抱きしめた。
その翌朝、私は睦樹さんによって婚姻届を手渡された。
『僕は何時でも大丈夫。
心【しずか】とも何度も話し合った。
紀天にもお母さんは必要だし、咲空良ちゃんのお腹の子にもお父さんは必要だよ。
だから……今は住み込みのヘルパーさんでもいい。
だけど……その子が生まれてくるまでには、
咲空良ちゃんのお腹の子の父親に、僕にならせてくれ。
怜皇にもそのことは伝えてきた』
睦樹さんの心遣いに涙が止まらなくなった。