【B】星のない夜 ~戻らない恋~
8.目覚める殺意 -葵桜秋-
季節は冬が始まり、新春を迎えて一月が過ぎようとしていた。
相変わらず、滅多に帰ってこない怜皇が
時折、邸に帰宅した明くる朝、身重の体をかばいながら
ゆっくり階段を降りて、怜皇に声をかける。
「怜皇、今日は何時に帰ってくるの?」
出掛ける度に何度もそればかり訪ねる私に、
うんざりしたように冷たい視線を向けるその人。
『今日も帰りは遅くなる。
晩御飯も先に食べるといい』
帰ってくる言葉は、
何時もと変わり映えのしない答え。
イライラする気持ちはおさまらない。
「貴方はいつもそればっかり。
お腹のこの子も、もうすぐ産まれるのよ。
私と貴方の子よ。
少しは父親らしいことをしたらどうなの?」
私の限界ももう爆発寸前。
ヒステリックに叫んだ途端、
使用人たちの視線が一斉に集まる。
「話はそれだけか?」
冷たく言うと、彼は見向きもせずに車へと乗り込んで出かけていく。
今日も……。
イライラする気持ちと寂しさが抑えられずに
一人出かけて買い物。
こんなことをどれだけ繰り返しても、
満たされないのは知ってる。
それでも、こんなものに縋って
気を紛らせるのは弱音を見せたくないから。
その日も一通り、出掛けて
夕方、瑠璃垣の屋敷に帰宅する。
張りを感じるお腹を庇うように階段をあがって、
自室へと引きこもり鍵をかける。
そのまま自室から寝室へ。
疲れた体を投げ出すようにゴロリと横になる。
気が付くとウトウトして何時しか眠りについてみたみたいだった。
どんなに強がって見せても、
この弱さに気が付いてほしいと
望んでしまう女心。
そんな心にすら、
寄り添って貰えないパートナー。
入れ替わっていた頃は、
もっともっとと全てを求めていったのに
理想と現実は違いすぎて。
晩御飯も食べずに、眠っていた私は
ベッドからゆっくりと体を起こす。
この子の為にも、何か食べなきゃ。
一階にゆっくりと歩みを進める。
その時、ガチャリと玄関のドアが開く音がした。
思わず息を潜めて、怜皇さまを見つめる。
アンティークの柱時計を見ると
時間は日付が変わって、一時半頃。