【B】星のない夜 ~戻らない恋~
私がそう言った途端に、
両親は黙ってお互いの顔を見合わせる。
そんな行動に咲空良が本当に妊娠しているのかもしれないと、
慌てて階段をかけあがって懐かしい部屋へと飛び込んだ。
「おいっ、咲空良。
何を勘違いしている?
葵桜秋は確かに妊娠している。
だけど……お腹の子の父親の話はついているんだ」
慌てて駆けあがってくる父。
だけどそんなのおかまいなしに、
私はベッドに眠っていた咲空良の首に両手をかける。
苦しさを感じたらしい咲空良が目を開けて、
私の腕を振りほどこうと抵抗する。
強い力。
だけど私も自分の未来がかかっているの。
だから……その時、部屋に響くのは携帯電話。
着信相手は怜皇さま。
その現実に思わず、両腕にこめる力が揺らいだ瞬間
咲空良は私を引き離して階段の方へと逃げるようにかけていった。
床に打ち付けられた衝撃の後、
私は何とか立ち上がって階段へと向かう。
ゆっくりと階段を降りる咲空良を両手で突き落とした。
転がっていく咲空良の体。
そんな咲空良を見つめながらただ大声で笑った。
「咲空良、咲空良?
葵桜秋、アンタって子は何てことしたの?
お姉ちゃんに……。
お父さん、どうしましょう……。
入籍を控えて、一日だけ睦樹さんに頼んで咲空良と和解する機会を
作って貰ったのに……。
咲空良?咲空良?」
「母さん、それより早く救急車だ。
咲空良が心配だ。
そして睦樹君に連絡を」
咲空良の傍では両親が慌てて声をかけてる。
そんな直後、
自分自身に起きた異変。
パシャンっと風船がはじけたような感触。
それと同時に生臭い匂いが鼻に届く。
破水したの?
突然の出来事に逃げ出すように、
階段をおりて家から飛び出す。
動くたびに少しずつ流れる液体。
階下に魘されながら倒れる咲空良に構う両親は
私に気づくことなんてなくて飛び出した私は、
そのままタクシーに乗り込んで自分の病院へと駆け込んだ。
付き添い何て誰も居ない。
この子は一人で守らなきゃ。
この子の未来が私の希望だから。
その数時間後……立会いのないまま、
生まれた我が子は高熱の為、私が抱くよりも先に
新生児集中治療室へと連れていかれた。
瑠璃垣伊吹【るりがき いぶき】。
一族によって名付けられることになる名前は、
次期後継者の証。
伊吹がいるから……私はもっと強くなれる。