【B】星のない夜 ~戻らない恋~
9.姉妹の争い 生まれた子供-怜皇-
その朝、俺が起きた時には屋敷の中が騒がしかった。
「おはようございます。
怜皇様、今朝方奥さまのお部屋へと朝の紅茶をお運びしましたら、
すでに部屋はもぬけの殻で……。
大変申し訳ありません。
この私がお世話を任されておきながら、
奥様に何かがあれば……」
木下は俺に深々と頭を下げながら謝罪する。
「庭先の防犯カメラに、咲空良は映っていないのか?」
「はい。
先ほど防犯会社に確認して、奥さまがタクシーで出掛けられたということはわかりました。
現在、タクシー会社の運転手を調査中です」
「わかった。
俺も心当たりを探ってみる。
木下たちも引き続き頼む」
「かしこまりました。怜皇様」
深々とお辞儀をした後、てきぱきと使用人たちに指示を出して
咲空良の捜索に慌ただしくなる屋敷内。
俺自身も、東堂の携帯を呼び出して
咲空良が早朝から居なくなってしまった旨を伝えて
本社への出社時間を送らせて貰った。
幸いにもこの日は、重要なスケジュールは入っていなかった。
次期、一族の後継者として望まれて誕生するはずの我が子の
出産予定日が近くなっていたため、その辺りのスケジュールを調整かけてくれていたみたいだった。
「かしこまりました。
私の方でも、奥さまの行方をお調べしたいと思います」
東堂との連絡を切った後、俺の携帯に着信を告げる一通のメール。
*
怜皇、咲空良ちゃんが承諾してくれたよ。
今日市役所に婚姻届を出しに行くつもりだ。
昨日だけは咲空良ちゃんも都城の実家に帰ってる。
もう少ししたら、紀天と一緒に婚姻届けを出して
咲空良ちゃんを迎えに行く予定だよ。
咲空良ちゃんのお腹の子は順調だよ。
だから怜皇も安心してほしい。
睦樹
*
親友からのメールに、ほっとする気持ちと
痛みが走る心。
慌てて携帯電話を閉じて、
エントランスの方へと向かう。