【B】星のない夜 ~戻らない恋~
咲空良……。
もしかして、アイツは実家へと顔を出しているのかもしれない。
木下たちの連絡ではここ数日のアイツの様子はヒステリックに当たり続け、
アイツの部屋は、咲空良ではありえなかった、ブランドの鞄や派手な服でクローゼットから溢れだす勢いだったと。
慌てて、アイツの携帯へと電話を呼び出す。
だけど電話に出る形跡はなかった。
「悪い、都城の実家へ」
運転手に告げて、邸から車を急発進させる。
今、咲空良も身重だ。
そんな身重の咲空良を見たら、葵桜秋は激情して
何をするかわかったもんじゃない。
どうして、もっと葵桜秋の動向に目を光らせて居なかったんだ。
頭に血がのぼったら、何をしでかすかわからない存在なのに。
俺の邸から都城の邸まで約一時間近く。
携帯電話を握りしめながら、
何事もないことを祈りながら車を走らせ続けた。
後少しで、都城家に到着しようかと言う頃、
俺の携帯に父の名が映し出される。
「もしもし、怜皇です」
「怜皇、咲空良さんが産気づいた。
今、病院から連絡があって破水してタクシーで現れたようだ。
怜皇もすぐに顔を出しなさい」
そのまま到着間近の都城邸から離れるように、
方向を変えて、養母の実家で経営している病院へと車を走らせた。
その途中、俺の携帯に睦樹からの着信が入る。
「もしもし」
「怜皇、今朝……突然、葵桜秋さんが都城家に現れて
ベッドに眠る咲空良ちゃんの首を絞めたみたいだ。
その時は逃げ出したみたいなんだが、
その直後階段から突き落とされた。
咲空良ちゃんはお腹を強く打って、母子ともに危険な状態みたいだ。
今、手術が始まった。
もし時間に都合がつくなら顔を出してほしい」
「あぁ、それで病院は?」
「的塲第一総合病院」
的塲第一総合病院。
睦樹の名が紡ぎだしたその名に、緊張が走る?