【B】星のない夜 ~戻らない恋~

会社のデスクで出生証明をみながら出生届を記入して、
邸へと帰宅すると珍しい来客があった。



「お帰りなさい、怜皇さん」


エントランスのソファーで、お茶を飲みながら寛いでいたその人が
俺を見つけて声をかける。


「ただいま戻りました。お養母さま。
 今日はどのようなご用件でしょうか?」

「母が息子の家に顔を出して悪いですか?
 今日は怜皇さんにお願いがあって参りました。
出生届の提出まだみたいですわね。 

 幾ら、忙しいからとはいえ今日で伊吹の誕生から10日。
 生まれてから14日以内と決まっているのですよ」

「えぇ。ですから、明日にでも東堂に代理を頼もうと思っています。
 書類は全て記入済みですから」

「まぁ、だったら私が代理提出いたしますわ。
 伊吹は私にとっても、可愛い初孫ですもの。

 それくらいは手伝わせて貰ってもいいでしょう?」




突然の養母の申し出に、
断ることも出来ずそのまま出生届を手渡す。




これで断って、養母の機嫌を損ねるよりは
祝福すると言っているのだから養母の思うように手伝って貰う方が、
伊吹の為にもなると信じていた。


それなのに……その思いは、
俺の想いとは裏腹に動いていく。


熱が下がらなかった伊吹は、
第一病院から第二病院へと転院が決まった。


そしてその第二病院のNICEで対面したのは、
二人の赤ちゃん。




瑠璃垣伊吹【瑠璃垣咲空良ベビー】1.29
瑠璃垣志穏【瑠璃垣咲空良ベビー】1.29



そうネームプレートに記されて、
二人並んで保育器で眠らされている。




そして……瑠璃垣志穏【るりがき しおん】として存在しているその子が、
廣瀬尊夜だと言うことは、俺には一目でわかった。




震える体を両手で押さえながら養母の元へと車を走らせる。
 




「お養母さん、どういうことですか?
 瑠璃垣志穏って?

 あの子は……」

「アナタと本当の咲空良さんの子供ですね。
 咲空良さんまで、身籠っていたとは良い誤算でした。

 すでにDNA親子鑑定も終えて、貴方が父親であることは知っています。
 ですから……双子として届け出ました。

 懇意にしている先生にご協力いただいて……。

 貴方もそのつもりで。
 瑠璃垣に誕生したのは双子の兄弟です。

 宜しいですわね」




そう言って、養母は不気味な笑みを浮かべながら
静かに紅茶の続きを楽しむ。





一族の犯した罪。
そして……最愛の二人から奪ってしまった我が子。




幸せに暮らせるはずの未来を奪ってしまった志穏。


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