【B】星のない夜 ~戻らない恋~
瑠璃垣伊吹【瑠璃垣咲空良ベビー】1/29
瑠璃垣志穏【瑠璃垣咲空良ベビー】1/29
枕元には、ネームプレートがかけられて
体にはネームタグが取り付けられている。
そして足の裏にも、マジックで書かれている名前。
「伊吹君・志穏君、お父さんとお母さんが来てくれましたよー」
そう言って看護師は声をかけながら、
保育器の中の二人に声をかける。
その声に体を動かす志穏。
何の反応も示さない伊吹。
「声をかけても伊吹には聴こえないわよ。
ドアを開けて、伊吹に触らせて頂戴」
怒りも含んだ声で告げると、看護師は慌てて保育器のドアを開ける。
ゆっくりと手を伸ばして、伊吹の体に順番に触れる。
「伊吹、わかる?
お母さん此処に居るわよ。
お父さんもちゃんと来てるわよ」
そう言って声をかける私に寄り添ってくれていたはずの怜皇様は、
もう一人の保育器の赤ん坊を黙って優しそうに見つめている。
「怜皇っ、ちゃんと伊吹にも目を向けてあげて。
あの子と違って、この子は耳が聞こえないのよ」
そう言いながら、障害を持った子にしてしまった自分自身を
責めずにはいられない。
だからこそ、この子には負い目なんて感じないように
しっかりとお父さんにも見守って欲しいのよ。
私が声を荒げた途端に、泣き始めてしまう保育器のお姉ちゃんの子供。
それを無視して、私は伊吹へと意識を向ける。
「咲空良、志穏がないてしまっただろ。
伊吹、少し待っててな」
そう言うと看護師に声をかけて、その子を泣きやませるために
怜皇さまはトントンと体に触れて落ち着かせていく。
再び、その子が笑顔を見せた時嬉しそうに微笑んだ怜皇様。
その光景が信じられなくて私はNICEを飛び出した。
そのままタクシーに飛び乗って、瑠璃垣の屋敷へと帰宅する。
「まぁ、咲空良さん。
こんにちは、そんなに髪も服も乱して何事でしょう?」
そう言って姿を見せるのは、怜皇様の養母。
「お義母さま、ご無沙汰しています。
今日は、どのようなご用件でしょうか?」
深呼吸をして目の前の人物を見据える。
「今日は咲空良さんに話があって伺いました。
伊吹に、聴力障害が出ているみたいね。
生まれた時は、お祝いムードで皆が伊吹を
次期後継者にと望んでいたけれど、
生まれた時から高熱に苦しんで、細菌性髄膜炎。
そして十月【とつき】しっかりとお腹の中に居たはずなのに、
出生体重は未熟児。
そんな時、面白い情報を手に入れました。
同じ病院に、葵桜秋さんが入院したと。
DNA鑑定の結果、葵桜秋さんの子供も紛れもなく怜皇の子供。
瑠璃垣怜皇と咲空良の子供は双子である。
そのように届け出てあります。
志穏は君とは違う本当の咲空良さんの子供。
その意味は、貴方が一番わかっていてね」