【B】星のない夜 ~戻らない恋~


「だとさ。
 どうする?怜皇。

 ここの親父さんの行きつけの居酒屋。
 いい味してんだよ。

 そこでもいいし、いつもの店でもいいし」

「廣瀬の社長さんが進めてくれたんだったら、
 そっちに行くべきだろう」

「了解。
 少し、社長の自宅に顔出してくるよ」


睦樹はそのまま工場の向かい側にある、社長の自宅へと移動して
紙袋いっぱいにお弁当がつまっているらしいタッパーを手にして
戻ってきた。



「睦樹、凄い量だな」

「そうだろ。
 一人暮らしで、いつもインスタントやレトルトばっかだって
 話してたら、社長の娘さんである、心【しずか】ちゃんが作ってくれるようになってな」




そんなことを言いながら、
睦樹はそのお弁当を大切そうに手にする。




「それ、食べなくていいのか?」

「これはこれで頂くよ。
 それより、今はお前だろ。

 ほら、行くぞ。
 今度は何があったんだ?」




そんなことを言いながら、
睦樹は俺を気にかけながら、始めていく居酒屋へと案内した。



赤い暖簾に、黒い文字で『心絆』と書かれたお店。

 

「よっ、廣瀬んことの若いの」



暖簾を潜って入った途端に、
お店の店主が、睦樹に声をかける。




「重(しげ)さん、厳(げん)さん、
 お願いします」

「おぉ、奥の部屋使いな」

「有難うございます」



睦樹が顔馴染になってるのか、お店の人たちと会話を交わすと
奥座敷へと案内される。


店内は仕事帰りのサラリーマンたちで賑わってる中、
奥座敷だけは、シーンと静けさが広がっていた。



「この部屋だけは音が遮断されるんだな」

「そうみたい。
 秘密部屋らしいから」

「さて、んじゃとりあえず飲むか。
 今日はうちのマンション来るだろ。

 今のままじゃ、お前、邸にも自宅にも帰りそうにないからな。
 外で過ごされるより安心だよ」


そんなこと言いながらアイツは学生時代みたいに、
俺の話を聞いてくれた。


あの頃と違うのは、
今はアルコールがお供についていること。


酒の勢いが……普段は言い出せない本音を
ゆっくりと吐き出させてくれる。



俺は……この先、どうしたらいいんだ?



問いかける答えは、何も見つからない。



そのまま慌ただしく時間はすぎ咲空良さんとの関係も、
思うように出来ないまま仕事に没頭し、
四月、瑠璃垣も入社式を迎えた。


重役列の一角に顔を並べながら、
会長と社長の言葉が、右から左へと聞き流されていた。
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