【B】星のない夜 ~戻らない恋~
今日ほど、目の前にいる義母が鬼のように映った時はないかもしれない。
唇を強く噛みしめながら、
私は震える手を、ギュっと握り拳にして耐え続ける。
冷たく見透かされるように告げられた声に、
私の体温は一気に下がっていく。
「貴方たちがそうやって 生きてきたように、
瑠璃垣伊吹の名も、伊吹に器がなければ志穏が受け継げばいい。
障害から残るリスクの高い伊吹には一族を背負わせることは出来ないわね。
だからこそ、早々に怜皇の血をつぐ後継者が必要なのだよ。
一族の安泰の為に……」
義母の言葉から逃げ出すように、
その場を走り去って階段を駆けあがって自室に引き籠る。
そして崩れるように大声をあげて泣いた。
偽りの真実。
それはもう引き戻すことが出来ない現実。
どれだけ真実を知っていても、
その真実が表に晒される日は来ない。
自らの過ちに罪を自覚せずにはいられなくなる夜。
満たされない想いは手に入れかけた幸せも遠ざけて、
私を深い闇へと突き落としていく。