【B】星のない夜 ~戻らない恋~
帰宅した睦樹さんは、
怜皇さんと話した内容をゆっくりと教えてくれた。
・尊夜の誘拐は怜皇さんも葵桜秋も知るところではなかった。
もし事前に情報が入っていたら、そんなことはさせなかった……。
・伊吹の名を継ぐ葵桜秋の子供が細菌性髄膜炎で後遺症が出る可能性があること。
その現実から一族を後継者争いから守るため志穏の存在は必要不可欠。
すでに伊吹と志穏が、私や葵桜秋のように入れ替わって志穏が
伊吹の名を受け継いで後継者となる可能性があること。
それ故に、瑠璃垣の為に志穏を尊夜として返すことが出来なくなった。
『助けて欲しい……瑠璃垣の未来を。
志穏の事はこうなった以上は俺が責任を持って大切に育てるから』
怜皇さんはそれだけを告げて、
逃げるように待ち合わせ場所から姿を消した。
睦樹さんは私にそう話してくれた。
確かに……あの子は本当に生まれていたら、
怜皇さんの後をついで、瑠璃垣の次期継承者になって居たかもしれない。
だけど……今の私には、
彼の良き理解者として振舞うことなど出来なかった。
飲ませることの出来ない母乳を
何度も絞って、流しへと捨てる日々。
瑠璃垣に奪われた我が子は帰ってこない。
その現実を突きつけられた夜。
家の外から眺めた空に星は何処にもなくて。
広がる暗闇。
星のない夜。
光を失って、泣くことも出来ない私は
そんな闇色の世界をただ見つめ続ける。
「風邪ひきますよ」
そう言って羽織ものを
肩に引っ掛けてくれる睦樹さん。
眠い目を擦りながら、
私の傍に近づいてくる紀天。
紀天は私の洋服を掴んで
言葉を続けた。
「ママ とうやは?
いつあえるの?」
幼い紀天が呟いた言葉。
その言葉に……私は温もりを求めるように
紀天を強く抱きしめた。