【B】星のない夜 ~戻らない恋~
伊吹の相手をしていると、突然携帯電話が震えだす。
着信相手は咲空良。
相手だけを確認して私は携帯をベッドの上へと放り投げた。
長いコールが続いて、電話が途切れたと思うと
またすぐに長いコールが鳴り続ける。
何度も何度も、気が狂いそうになるほど。
電話の内容は想像がつく。
愛しい子供を私が誘拐したと勝手に決めつけて、
一方的に責める電話かもしれない。
そう思うと……その電話を取る気にはなれなかった。
今回は姉も被害者かもしれない。
だけど私自身も被害者だもの。
私の携帯に、何度も何度も懲りずにストーカーのように、
嫌がらせのように電話をかける暇がへあれば、
この屋敷に忍び込んで、志穏を連れ去ってくれればどれだけ
私と伊吹の心が安らぐことか……。
電話なんてかけずに早く来なさい。
貴方の子供は、すぐ傍よ。
何時だって奪い返せるでしょ?
殆ど大人が傍に居ない生活をしているのだもの。
一人眠り続ける、我が子の部屋に忍び込んで
奪い去ることなんて簡単でしょう?
鳴り続ける電話、そんなことを考えながら
私は耳を塞いでやり過ごした。
18.伊吹の発育 一族会議 -怜皇-
伊吹と志穏が誕生して一年が過ぎようとしていた。
伊吹の写真も、志穏の写真も成長の過程を平等にカメラに収めながら
二人のアルバムを作るのが、この頃の俺の楽しみだった。
俺が撮影する以上に、日中、伊吹と接し続ける彼女が撮影する写真が
伊吹のアルバムには大きく枚数を重ねる。
それでも仕事の合間に時間を許す限り、志穏の写真を撮り続けた。
撮った日にちを刻み込んで。
寝がえりをうった日、ハイハイをするようになった日、
そして……つかまり立ちをするようになった日。
志穏の大切な成長の節目節目は、
確実に抑えて咲空良さんにも成長を共有してほしかったから。
残酷かも知れないけど……
少しでも彼らが尊夜と呼ぶ子供の成長を伝えたかった。
確実に成長していく志穏と違って、伊吹の成長ペースはゆっくりだった。
抱っこをしていても、後ろにのけ反ってしまう伊吹。
ハイハイはかろうじておこなうけれど、
一歳近くになった今でもつかまり立ちが出来ない。
病院の先生からは、
『子供の成長はそれぞれですから、今はゆっくりと見守りましょう』
そう告げられるものの、同じ時期に生まれた志穏との成長ペースに差が出れば出るほど
周囲の見る目は変化していく。
「それ見たことか」っと養母に至っては、
執拗に葵桜秋と伊吹を責めるようになり始めていた。
最初は養母だけだった存在が、一人、また一人と増えて
今では一族の会議にも、議題にあげられるほど、親族への影響は著しかった。