【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「怜皇さん、貴方から見て瑠璃垣の後継者として相応しいのはどちらだと思いますか?」
定例の親族会議。
その場で、養母に問い詰められて俺は言葉を詰まらせる。
「現時点ではまだ判断はつけられません。
伊吹は確かに聴覚に障害を持ち、今も、同じ時期に生まれた志穏と比べても
成長ペースが遅いのかもしれません。
ですが……子供の成長にはペースがあります。
今少し、見守って頂くことは出来ませんか?」
ゆっくりと親族を見つめながら自分の意見を伝える。
「ですが怜皇さん、伊吹さんとして次期後継者の名を持つ存在が
障害者と言うのは、社員を不安にさせますわ?
幸いにして、まだ伊吹も志穏も一歳。
今なら名前がかわってしまっても、馴染みやすいでしょう?
大きくなってから、入れ替えるなんて可哀想じゃありません?
これは、怜皇さんに対して咲空良さんと葵桜秋さんがやっていた
軽はずみなゲームとは違うんです。
瑠璃垣の未来をかけた大事。
私はこのように思うのですが、お集まりの皆さま方はいかがでしょうか?」
会議に顔を出した親族に同意を求めるように、
周囲を見渡す養母。
すでに養母に寄って策略されていた会議は、
賛同を表す拍手によって、幕を下ろされる。
伊吹には聴力障害が残ってしまった。
だけど……それ以外に、障害が残っているとはまだ決まっていない。
だけど……次期後継者の名を持つ存在が、
障害者と言うことで、伊吹が傷つく将来も想像は出来る。
ならば……俺は、
この養母の意見を受け入れるべきなのだろうか?
煮え切らない想いを抱きながら、
両親の邸を出て、最初に母の元へと向かう。
母の自宅で、つかまり立ちをして俺を迎え入れる志穏。
この子が……一族を担う子供になるのか?
自問自答しながら、
親友たちに送る子供の写真を今日も撮影し続ける。
「母さん、また来るよ。
今日は疲れた……」
「そうねー。
今日のアンタは疲れた顔をしてるわ。
パパがそんな顔をしてると、志穏も心配でちゅね」
急に赤ちゃん言葉を意識するように、
声色をかえて、母が志穏に話かける。
すると志穏は何故か泣き始める。
「ほらっ、アンタがそんな顔してるから
心配してるじゃない。
帰る前にちゃんと抱きしめて、愛情を注いでいきなさい。
睦樹君たちに誓ったんでしょう?
アンタが大切に育てるって。
だったら男がしけた面見せないの。
シャキっとしなさい」
そう言って、母は俺の背中をバシっと叩きつけた。
体制を崩しそうになってよろよろとした俺だが、
志穏には楽しかったのか急に泣きやんで笑い始める。
「ったく……楽しかったか……」
志穏の笑い声が、伊吹を通して感じる俺の中の不安も
吹き飛ばしてくれるようで……少しだけ元気になれた。
その一ヶ月後。
伊吹と志穏が一歳一ヶ月を迎えた日。
また一つ瑠璃の封印は秘められることになった。