【B】星のない夜 ~戻らない恋~

7.瑠璃の君  -咲空良-


卒業式の翌日、瑠璃垣の家から突然やってきた迎え。



その日から私が暮らすことになった瑠璃垣の屋敷は
四方を高い塀に囲まれた威圧的な建物だった。


高い壁が四方を囲む、一角のシャッターから
敷地内に続く道を開く。


静かに進んだその道の向こうには、
人工的に手入れをされた、
庭園と大きなお屋敷がそびえたっていた。


ゆっくりと玄関前で停車した車のドアを開ける
使用人らしき人の姿。


差し出されるままに、手を借りて車から降りると
ゆっくりとその男の人はお辞儀をした。




「咲空良さま、どうぞこちらへ」




スーツの女性に連れられて屋敷の中に入る間も、
次々と使用人らしき人からお辞儀をされる。



見られることに慣れない私は、
すでに過緊張した時間ばかりが続いていた。


通された応接室。


ソファーに座ると、
すぐさまティーセットが並べられる。



「自己紹介が遅くなりました。
 私はこの三月より、怜皇様付の秘書を拝命いたしました。

 東堂双美子【とうどう ふみこ】と申します。

 怜皇様のスケジュールなど、管理させて頂いていますので
 何かありましたら、どうぞご連絡くださいませ。

 咲空良さまにおかれましては、一日も早く
 こちらの瑠璃垣で生活に慣れ親しんで頂いて、
 立ち居振る舞い、語学を身に着けて頂くようにと申し付かっております。
 
 怜皇様は仕事の為、暫く戻りにはなれません。
 
 何かありましたらこちらの電話番号まで、ご連絡くださいませ。
 木下、後はお願いします」



スーツの女性は、そう言うと木下と呼んだ
迎えに来てくれたメイドさんを残して部屋を出ていった。



シーンと静まり返った、広い応接室。



間が持たなくて、震える手でティ-カップへと
恐る恐る手を伸ばす。


緊張から思い通りの所作が出来ず、
カップが、カチャカチャと音を立てた。



何とか、紅茶を飲み終えると「ごめんなさい」っと、
ただ謝る言葉しか出なかった。



そんな私に、木下さんは「咲空良さまが謝られる必要はありません」っと
やんわりとした口調で言い聞かせるように告げた。


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