【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「ただいま」
「お疲れ様です。
お仕事はいかがでしたか?」
「順調だよ。
また来週、出張が入るかもしれないけどね。
だけどまだ、重役たちが求める器には俺は未熟なんだ。
もっといろいろと吸収して、経験を積まなければ。
家族を養っていかないといけないしね」
怜皇さまが紡ぐ『家族』っと言う響きが、
私をくすぐっていく。
嬉しいのに……今も素直に喜べないのは、
私の存在が仮初だから。
「伊吹は?久しぶりに志穏に会わせたい。
兄弟の対面だろ」
そう言って伊吹の部屋へと怜皇さまは志穏を抱いて入ってしまう。
伊吹の正面へと近づいて、
一人で床に座って玩具を手にして遊ぶところに腰を下ろす。
「伊吹、ただいま。
ほらっ、弟の志穏も帰ってきたよ」
ゆっくりと告げて、志穏を床におろすとそっと伊吹を抱き上げる。
伊吹は嬉しそうに笑いながら、手足を空中でバタバタさせる。
すると……志穏も抱っこをねだるように、
怜皇さまの足にしがみついてゆっくりと手を伸ばす。
「志穏、貴方は後よ。
今は伊吹の時間」
弟は兄の後なのだと、今から徹底的に教育すればいんだわ。
そう思った私は、抱っこをねだる志穏を怜皇さまからはなして
少し遠いところへと座らせる。
そこからすぐに志穏はハイハイをして伝い歩き出来る場所を探して、
ゆっくりと立ち上がっていく。
そしてコロンと尻もちをついて泣き出した。
「伊吹を」
そう言って抱いていた伊吹を私に預けると、
怜皇さまはすぐに志穏の傍へと駆け寄って、
泣き出した志穏を宥めて、ゆっくりと抱きあげた。
「遅くなりました。
お食事の支度が整いました」
木下が現れた後、私たちはそれぞれに子供を抱きしめたまま
ダイニングへと移動する。
そこでご飯を食べ終えて、リビングでの一家団欒の時間。
リビングに用意されていたのは箱が二つ。
「まぁ、これは?」
「そろそろ必要になるだろう。
今日のお土産だよ」
怜皇さまはそう言うと綺麗に包装された箱を
手元へと引き寄せた。
「まぁ、伊吹。
お父様からのプレゼントなんて楽しみね」
伊吹も志穏も二人して、箱の存在に気がついたのか
ハイハイして近づいていく。
「志穏、貴方は後よ。
先に選ぶのは、お兄ちゃんの伊吹よ」
そう言って志穏を掴んで動けないようにすると、
怜皇さまは私を見て溜息をつく。