【B】星のない夜 ~戻らない恋~
真剣な眼差しで怜皇さんに頼まれて、
ずっと幼い頃から兄弟の絆を、葵桜秋の目を盗んで育み続けてきた伊吹君と志穏に……
私たちが入りこむ隙なんて、何処にも存在しなかった。
こうして……瑠璃垣志穏の名で、
葵桜秋の子は、静かに荼毘に付された。
葵桜秋の子供の死から四十九日が済んだ時、
参列していた私の元へと、よろめきながら葵桜秋は近づいてきた。
我が子を失った悲しみは深すぎて、
葵桜秋の体を見る見る弱らせていった。
「葵桜秋、ちゃんと眠ってるの?
ご飯は?」
「大丈夫。
心配かけてごめんなさい。
だけどお姉ちゃん……お願い……。
私の我儘を聞いて」
そう言って葵桜秋は小さく呟いた。
「私……怜皇さまと離婚するの。
私はお姉ちゃんにはなれない。
それに……今は私の生きがいである伊吹ももう居ない。
私の名前を返して……お姉ちゃん」
途切れ途切れの小さな声で、
縋るように訴える葵桜秋の言葉。
そんな葵桜秋の姿は私は初めて。
私が知っている葵桜秋は、いつも凛としていて逞しくて
皆に好かれる強い存在だったから。
ずっと強いと思っていた妹の弱さを知った時、
私はその思いを受け止めようと決意した。
ずっと歪み続けていたその時間が、
もう一度解けるのなら……それも悪くないのかもしれない。
星のない夜。
永遠にも似た真っ暗な時間が、
夜明けを迎えようとしていた瞬間にも感じられた。