【B】星のない夜 ~戻らない恋~
離婚した後からずっと思い続けてた私の願い。
散々苦しめ続けてきた姉が幸せになるのを見届けたら、
私の最愛の我が子の傍へと旅立ちたい。
もう……お姉ちゃんは大丈夫。
伊吹……寂しがらないで。
もう一人にしないから……ママがすぐ近くに行くから。
教会を出てそのまま山の中へと深く入り込んでいく。
手に隠し持つのは眠れなくて通い続けていた病院で処方して貰った睡眠薬。
『お姉ちゃん……どうか幸せに……』
最後の望みを口にして手にしていた数枚のシートの睡眠薬を飲み干すと、
私はその場へと倒れ込んだ。
*
伊吹が元気に駆け回る世界。
大好きな本を読みながら、
伊吹が花畑の上を忙しなく走り回っていた。
『伊吹』
我が子の名前を呼ぶと、伊吹はすぐにな私の方へと
駆けつけてきてぎゅっと私に抱きついた。
そんな伊吹の体を抱きしめる。
伊吹の小さな手が私に、よしよしと慰めるように
髪に頭に触れる。
『伊吹……もうずっと一緒に居るよ』
そう言って再び、伊吹の体を抱きしめた時
抱きとめていたはずの伊吹の体は、
スルっと私の腕の中からすり抜けてしまった。
『伊吹?
待って、何処に行くの?
伊吹?』
伊吹の傍に駆け寄りたいと思うのに、
金縛りかかったような体は、それ以上その場から動くこと出来なくて
必死に我が子の名を叫び続ける。
「母さん、大丈夫。
僕は何時も一緒に居るよ。
僕は……今も、アイツの中で生きてるから。
志穏を……僕の弟を宜しく」
そう言って伊吹は私の傍から姿を消した。
『伊吹、伊吹……伊吹っ!!』
手を伸ばして飛び上がった時、
私の視界には眩しい光が差し込んできた。
「葵桜秋」
心配そうに私を見下ろしていたのは、
もう繋がりがなくなったはずの怜皇さまと……咲空良の息子・志穏。