【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「……どうして……。
私……生きてるの?」
あまりのことに、そんな言葉しか出てこない。
「伊吹が……、いや志穏が探し出してくれた。
睡眠薬を飲んで、山の中で倒れている君を……
そして俺がここに運び込んだ。
君はこんなにも追い詰められていんだな。
すまん」
そう言って怜皇さまは、私をそっと優しく抱きしめてくれた。
そして視線を、姉の息子……志穏へと移す。
「貴方が見つけてくれたの?」
静かに問いかけた私に志穏は
『兄さんの声が聞こえたんだ。だから見つけられた』っと私に教えてくれた。
そして彼はそのまま窓の外へと視線を移した。
「勝手にどっか消えるとかありえないから。
オレたちをおいて。
オレの中で兄さんも心配してるよ。
それに父さんも……」
その言葉に視線を怜皇さまへと視線を向ける。
「葵桜秋、退院したら瑠璃垣に帰ろう」
怜皇さまは優しく告げる。
「父さん、母さん、先に屋敷に帰ってる。
早く退院してよ。
兄さんと待ってるから」
そう言って、伊吹は私と怜皇さまがいる病室から
外へと出て行った。
「怜皇さま……」
彼の名を呟いた私を彼は久しぶりに優しく抱きとめた。
目覚めてから一週間後に体の衰弱がある程度改善されて退院した私は
葵桜秋として、住み慣れた屋敷へと足を踏み入れた。
一年前、瑠璃垣の家を出た時と何も変わっていない私の部屋。
そして私の大切な子供の大きな写真も私の部屋には飾られてた。
カチャリとドアが開いて怜皇さまが私の部屋へと踏みいれる。
「怜皇さま……志穏……っあ、伊吹は?」
元の名で呼んだあと今の名前を紡ぎ直す。
「伊吹は昂燿の寮へと戻ったよ。
明日から二学期の期末試験みたいだ。
試験が終わったら帰ってくるよ」
そう言いながら怜皇さまは、私の部屋のソファーへと腰掛けて
私に隣へと座るように告げた。
そこで手にしていた革張りの日記帳を広げる。