【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「これは……伊吹の日記……」
ゆっくりと引き寄せて、懐かしいあの子の筆跡を追いかける。
今日は私と何をやった、今日は弟から手紙が来た。
書き綴られる内容は、日常の他愛のない
伊吹が感じた言葉。
懐かしい文字を指先で辿っていく。
気がついたら、日記調へと涙が零れ落ちる。
そして日記の最後の頁に、沢山挟まれてあった封筒へと手を伸ばす。
表面に綴られたのは、瑠璃垣伊吹様。裏面に綴られているのは、瑠璃垣志穏の名前。
知らない間に、あの子たちは兄弟で文通をしていたの?
あの頃の私は、姉の子供とは我が子を関わらさないようにしていたのに……。
それなのに……この子たちは、親の目を盗んでちゃんと繋がってたって言うの?
そんなことを感じながら、封筒に収められた手紙を抜き出してそっと広げる。
*
志穏へ
志穏、元気で頑張ってる?
一週間前、かなり発作が続いて大変だったけど
僕は今日は少し調子いいよ。
この間帰ってきた時、母さんが心無い言葉を言って
ごめん。
僕がこんな体で至らないから、
周囲の目が母さんにキツクなってる。
その母さんのストレスが、弟のお前に八つ当たりとなって
いってるのは知ってるのに、僕、何も出来ない弱いお兄ちゃんだね。
今も瑠璃垣の家の重責の全てを志穏に一人押し付けてる。
僕には何も出来ないけど、
辛くなったら……潰れてしまう前に僕に教えて。
志穏は僕の大切な弟なんだから。
伊吹
*
次の封筒から取り出した手紙には、
また別のことが書かれてた。
*
志穏へ
手紙読んだよ。
昂燿校は楽しそうだね。
志穏に、学校でのお兄ちゃんが出来たなんて
僕もうかうかしてられないね。
僕の方がお兄ちゃんだよ。
志穏の。
僕の体が元気で、僕が瑠璃垣伊吹として
悧羅学院に通うことが出来てたら、僕にはどんなジュニアが出来て
どんなデューティーが出来ていたのかな?
何時か君のデューティーにも会わせて欲しいな。
だけどどんなに、その人が志穏のお兄ちゃんだと言い切っても
僕もそれだけは譲らないよ。
夏休みには帰ってくるよね。
会えるの楽しみにしてる。
伊吹
*
思わず我が子の手紙を読んで泣きながら、
涙が溢れてしまう。