【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「続いて、奥の扉をご案内いたします」
花楓さんがドアをゆっくりと開くと、
真っ先に飛び込んできたのはキングサイズの広いベッド。
寝室。
寝室と隣接する場所に設置された、
バスルーム。
「ここが私の寝室ですか?」
あまりにも広い空間に思わず言葉を零す。
「こちらが、瑠璃の君と
咲空良さまの寝室になります。
寝室の向こう側の扉は、
瑠璃の君の部屋へと続いております。
普段は、瑠璃の君の部屋側より
鍵がかかっていますので決して立ち入られませんように」
あまりにも想像していた世界と違いすぎる空間に
戸惑うばかりの初日。
実家より運び出された荷物も、
届けられることなく、
その日はそのまま時間だけが過ぎていった。
食事の時間に花楓さんが呼びにくる以外は、
自室に籠りっきり。
掃除をして気を紛らわせようにも、
生憎、綺麗に手入れされた部屋は埃一つ落ちていない。
何もすることがなく、時間を持て余していた私も
何時しか、布団に潜り込んでゴロゴロしている間に
眠りについていた。
翌朝、早く目が覚めた私は
部屋を出て、庭園の掃き掃除を始める。
太陽の光を浴びながら、
箒で玄関周辺や庭園を掃いてゴミを集めていると
慌てて、知可子さんが近づいてきた。
「おはようございます。
知可子さん」
にっこり笑うと、知可子さんは困ったように
やんわりと言葉を続けた。
「おはようございます。
このお屋敷の中の掃除などは、
私たち、使用人の仕事でございます。
どうぞ、咲空良様はゆっくりと朝のひと時、
お好きなことをなさってくださいませ。
お食事の支度が出来ております」
そう言うと、私の手から箒と塵取りを抜き取って
傍に居た別の使用人の方に手渡す。
そのまま知可子さんに連れられるように、
食堂へと案内されると、
差し出された大きなボウルの中でゆっくりと手を洗う。
手を洗い終わったタイミングで
次に差し出されるのは、お手拭き。
至れり尽くせり。
椅子から動くことなく、全ての行動を終わらせると
次々と並べられる朝食をゆっくりと食べていく。
豪華な朝食も食べているのは広い部屋の中私一人。
私が食事を進める間、
花楓さんは、給仕の為に傍で控えている。
見られながら食べる生活に
まだ慣れることは出来ない。
見られている意識が、
フォークやナイフの使い方を
焦らせていく。
緊張から胃が痛みだした私は、
全てを食べきることも出来ず、
食事を終えると、早々に自室へと引きこもった。
自室から続く寝室。
広すぎるベッドに、体を横たえて
少し体を休める。