【B】星のない夜 ~戻らない恋~




……私、本当に
  この家で生活できるのかしら?……




不安だけが押し寄せてくる。




何をしていいかわからずやりたいことは何一つできない、
そんな時間が続く日々。


ようやく瑠璃の君との対面の日が来たのは、
瑠璃垣の屋敷に来て、一ヶ月が過ぎようとしている頃だった。



瑠璃の君と花楓さんが呼ぶ、
フィアンセと初対面の日の夕方がやってきた。



花楓さんに言われるままにお迎えの支度を整える。



事前に、双美子さんから連絡が入ったのか
帰宅時間前に、自室へと迎えに来た知可子さんに連れられて
私も玄関へと顔を出した。



一番最初に並ぶのは私。
その後ろに知可子さん。

私の斜め前には、ドアマンの男の子。



ゆっくりと大きな車がエントランスに入ってくると、
ドアマンが車のドアを開け、中から長身の男性が姿を見せた。



思わず……その人の表情を見て立ち尽くす。



その人は、卒業式の日。

心<しずか>の想い人である、睦樹さんと一緒に
フローシアの前に立っていた、その人だったから。


今日まで知らなかった、許婚の存在が少しだけ
全く知らない人から、一度は姿を見かけた存在になった日。



「お帰りなさいませ。怜皇坊ちゃま。
 お食事の支度が整っております」



私の後ろから、知可子さんが
ゆっくりと荷物を持ちながら声をかける。


「それでは怜皇様、明日は8時にお迎えに上がります」


そう言うと、東堂さんはそのまま深くお辞儀をして
玄関を後にした。

怜皇さんが乗って帰ってきた車も、
ゆっくりとエントランスから姿を消す。


知可子さんたちに連れられて、
再び案内された食堂。



そこで、ここに来て初めてフィアンセと二人きりの夕食。


給仕の使用人の視線も気にせず、
次々と食事を進めていく怜皇さん。


今も慣れることが出来ない私。



食事が上手く出来ないどころか、
怜皇さんの目すらまともに見ることが出来ない私は
今も俯き加減のまま、向かい合って座っていた。



沈黙にも近い時間で食事を終えると、
怜皇さんは、すぐに食堂を退室していく。


私も自分の食事を終えると、
慌てて自分の部屋へと急いだ。



だけど……自室に戻るまで気が付かなかったんだ。



キングサイズのベッドが一つしかないことに……。




そして花楓さんの言葉が思い出される。




花楓さんは怜皇さんと私のベッドだって言ってた。


と言うことは……結婚が前提の私たち。
婚約者の家で、花嫁修業中って言う建前上の私。


隣の部屋では……大人のそういう行為になりうるかも知れない
危険も隣り合わせなわけで。


その可能性に気が付いたとたん、ただ隣の部屋に続く、
ドアを見据えたまま……時間だけがふけていった。


欠伸が何度かこぼれて、眠気が押し寄せてきた私は
目をこすりながら、隣の部屋に続くドアを開ける。


誰もいないことに安堵して、バスルームでお風呂を楽しむと、
慌ててパジャマを着て布団に潜り込んで眠ってしまおうと思った。

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