【B】星のない夜 ~戻らない恋~
だけどタイミングをはかったように、
怜皇さん側からのドアが音を立てて開く。
ベッドは一つ。
半分子にして眠っても十分な広さがあるとは言え、
抵抗感だけは今も拭えない。
まだ恋もしてないの。
どうせなら、好きな人としたいって言う
そんな夢をこんな形で摘まれるなんて。
「咲空良さん、改めまして瑠璃垣怜皇です。
早々にお呼びだてしてすいません」
そう言って差し出された手。
「初めまして。都城咲空良です。
卒業式の日、睦樹さんと一緒にフローシアにいらっしゃいましたね?
お会いしてびっくりしました」
そう切り返した途端、怜皇さんの突き刺さるような視線。
ヤバイっ。
睦樹さんって、フィアンセとなった身で
他の男の人の名前をだしたからいけなかったのかな?
「あぁ、睦樹さんと私は何ともなくて。
睦樹さんは、友達の心<しずか>の思い人で……」
そう言い訳がましく続けるその言葉の後も、
突き刺さるような視線は変わらなくて。
だけど差し出された手はひっこめる気配もなくて。
ゆっくりとその手を取るように、自分の手を重ねると
そのまま力強く引き寄せられた。
崩れた体制は、立て直すことも出来ず
怜皇さんの胸に頭を乗せるような形でベッドへと倒れこむ。
委縮する体。
薄い服越しに、体の上を撫でるように
這わせていく怜皇さんの指先。
手の感触。
ゾクゾクっと電気が走ったように
反応する体に、思わず声が漏れだしそうになる。
それと同時に強くなった恐怖感から、
私は目の前の怜皇さんを両腕で思いっきり突き飛ばして、
ベッドから逃げ出す。
部屋の隅、小さく体を震わせながら黙って睨むように見つめ続ける私に、
怜皇さんは小さく溜息を吐き出して入ってきたドアの方へと向かった。
「まぁいい。
早くこの家になれなさい。
俺の隣で一日も早く立てるように」
ドアノブに手をかけたまま、振り向いて冷たい口調で告げると
扉の向こうへと消えていった。
ガチャリっと閉ざされたドアと向こう側からかけられた鍵の音に
安堵する私。
瑠璃の君と呼ばれたフィアンセとの甘くない日々が
訪れそうな気配がした。